手ぶら登園保育コラム

保育園の運営に役立つ情報を発信

大人が「楽しむ」ことから、園も子どもも変わっていく——大豆生田啓友 #保育アカデミー

大人が「楽しむ」ことから、園も子どもも変わっていく——大豆生田啓友 #保育アカデミー

「どんな園でも変わることができると私は思っています。まずは一人ひとりが、素直な気持ちで行動してみてください」

さまざまな講師を招いて開催された、2021年2月『冬の保育アカデミー』の初日。リアルタイムだけで450名を超える保育者が視聴するなか、まず登壇したのは大豆生田啓友先生(玉川大学教育学部教授)です。

お話いただいたのは、さまざまな事例を通じた「保育が変わる」ための視点。その大事なキーワードの一つが、“楽しむこと”でした。

何をどう楽しみ、そして自分や園がどのように変わればいいのか。本記事では、90分に渡る講義の一部を振り返ってみます。

(この記事は、『冬の保育アカデミー』(主催:大友剛)のオンライン講義の内容を、メディアパートナーとしてベビージョブ編集部が再構成したものです)

「みなさん、保育は楽しいですか?」

大豆生田今も地域によっては2回目の緊急事態宣言が続くなか(2021年2月7日(日)配信)、先生方はさまざまなところで大変な気遣いを重ねられていることと思います。

まずはこうやって研修に参加いただけることを、本当にありがたく感じています。

『秋の保育アカデミー』講師の大豆生田啓友先生『秋の保育アカデミー』講師の大豆生田啓友先生

大豆生田昨年以来、私は園に出向いてみなさんと直接お話することが難しくなってしまいました。にもかかわらず、こうして素敵な先生方とたくさん出会わせていただき、「ああ素敵だな」と感じる事例をいくつも聞かせてもらっています。

特に最初の緊急事態宣言のときは、これまでにない取り組みを試みる園が多くあったようです。(参考記事:コロナ禍で語り合う「保育の質」——『夏の保育アカデミー2020』①大豆生田啓友

動画で「こんなことを楽しみにして待ってるよ」「あれおもしろかったよね、今も先生たち探してるからね」といった発信をしてくれたり、子どもがデジタルツールに触れる機会が増えたことを生かして、プロジェクターなどをうまく使った遊びを展開したり。

新しいアプローチをやっていくなかで、次第に子どもたちがワクワクして、保育者もワクワクして、保護者も不安がなくなっていく……といったことが、実際に起きたと聞きました。「危機的な状況だからこそ」と先生方が考えてくださったことが、結果として保育を変えていったと言えるかもしれません。

当日の資料より。以下同(当日の資料より。以下同)

大豆生田さて、みなさんの保育はいかがでしょうか。楽しいでしょうか。

保育には大変なことがたくさんあります。けれども、本来はやっぱり楽しいものだろうと私は思うんですね。そうなるために、「先生たち自身がワクワクしていくこと」がとても大事になる気がしています。

『冬の保育アカデミー』全体のテーマは「保育を変える、自分を変える」。今日の私の話も、保育のなかで自分がどんなときにワクワクするのか、そして自分の保育がどう変わるのか、と考えながら聞いていただければと思います。

満たされるときに、子どもは自然に変わる

大豆生田よく「子どもが変わった」などと言いますが、子どもは大人が変えようと思って変わるものではありません。

「自分が満たされた」と感じたときに、むしろ自然と子どもが変わっていくのです。なので、まずは保育士自身が、子どもの行動を肯定的に受け入れる必要があります。

ところが、大人はついつい子どもに「ラベル」を付けたくなってしまいます。特に発達上、何らかの特性を抱えたお子さんを前にすると「こだわりの強いタイプの子だから、こうなんだよね」といったことを考えてしまう。

そうした傾向を知ることはもちろん大事なのですが、ラベル付けをした瞬間に「その子が見えなくなる」ことを、保育者はきちんと理解しなくてはいけません。ある事例では、子どもの行動を「自分には見えない素敵な世界をこの子は生きてるんじゃないか」という目で見はじめたところから、保育が変わっていきました。

これは発達の特性に限らず、あらゆる子どもの行動において重要な視点で、「噛みつきの多い◯◯ちゃん」などと見ている間は、なかなかその子の世界は見えてきません。まずは保育者が肯定的に受け止め、子ども自身が「自分は受け入れられている」と感じるところから、子どもは変わっていきます。

そして、保育者がその子の世界の仲介者となることで、周りの子どもたちも変わっていくことがあります。

大豆生田先生

大豆生田ここで求められるのが「応答的な関わり」です。子どもの心の声を聞いて、気持ちに寄り添っていくこと。その過程では、決まった計画にとらわれず、子どもの興味・関心に応じてそれをつくり直していくことも大事になります。

もちろん簡単ではありません。「あれもさせてあげた方がいいかな」「でも生活リズムを保たなきゃ」などと、実際の保育のなかでは考えるべきこともたくさんあるでしょう。

それでも、まずは一人ひとりの「1日」をしっかり満たしてあげることが保育者にとってはとても大切です。

別の事例では、「自分が気づかない子どものメッセージが、他にもいっぱいあるんじゃないか」と不安を持っておられる先生がいました。ただ、私はそこに気づくこと自体も非常に大事だと思っているんですね。

手探りで子どもに関わりながら、結果的に保育者自身が「ああそうだったんだ」と変わっていく。主体的であるのは子どもだけではなく、大人もまたワクワクしながら行動することで、保育が楽しく、良くなっていくのだろうと考えています。

「私」を変えてくれた、悩みや人の存在

大豆生田今の2つの事例は、大人が育つことで結果的に子どもが「自分から育っていく」ことも示しています。かつて倉橋惣三(1882〜1955、教育者)も指摘していた、『育ての心』ですね。

自ら育つものを育たせようとする心。それが育ての心である。世の中にこんな楽しい心があろうか。それは明るい世界である。温かい世界である。育つものと育てるものとが、互いの結びつきに於て相楽しんでいる心である。

『育ての心(上)』(フレーベル館)より引用

大豆生田私自身も、自らの体験でこれに何度も気づかされてきています。学生時代、養護学校で出会った自閉症の子どもには、人の見ている世界一つひとつが生き生きとしていることを教えられましたし、幼稚園で担任を持っていたときには、何かをさせるよりも「一人ひとりの良さに寄り添う」ことが大切だと気づく、とても素敵な出会いをさせてもらいました。

また、我が子から、あるいは妻から気づかされたこともたくさんあります。それまでいろんな保護者の方に「ちょっとこうしてみたら」なんて言っていたけれど、自らの子育てを通じて、「困ってるときにそんなこと言われても無理だ」と身をもって知りました。

私が「変わる」ことを支えた要因

大豆生田それらの経験には、いくつか通じるものを感じています。

一つは、悩みや葛藤のなかで「どうしたらいいだろう……」と自分なりにジタバタした経験が、実は重要だったこと。その過程を経て「こうかも」と希望が見えてきたとき、結果的に私は少し変わることができたように感じます。

また、大事なことはすべて「子どもから」教わったとも思っています。私たちは当然子どものためにその声を聞くわけですが、声を聞くという行為そのものから、実は大人がたくさんの驚きをもらうのだなと気づかされました。

そして、自分を支えてくれる他者の存在も欠かせません。それは「アドバイス」をくれる人ではなくて、ただ「わかってくれる」誰かです。そうした人がいて初めて、私は次の一歩を踏み出すことができたと思うんですね。

積み重ねの生む「文化」が、子どもの世界を広げていく

大豆生田もちろん、実際に「ああ、こんなふうに保育してくんだ」という気づきは、今もいろんな園の先生たちの保育事例から学ばせていただいています。

つい先日も、「科学する心を育てる」ための保育実践(ソニー幼児教育支援プログラム)に論文を出された、5歳児さんのロケットづくりのプロジェクトの話をお聞きしました。

2019年度 審査員特別賞を受賞した『つばさ保育園』2019年度 審査員特別賞を受賞した『つばさ保育園』(ソニー教育財団 入選論文の発表サイトより)

大豆生田この事例からは、子どもの「やりたい」という思いを大人が全力で受け止め、一緒に取り組むことの重要性にいくつも気づかされました。

まず、「これがおもしろいから、みんなでやろう!」とする文化が、園のなかできちんと伝承されていることです。この園では前年の5歳児さんの活動でいくつものブームがすでに起こっており、保育者の関わりによって豊かな遊びが生まれていたんですね。今回のような大きなプロジェクトも、そんな積み重ねの先にあるのだとわかりました。

そして、保育者が「子どもの声」や「活動プロセス」を写真・文字で可視化する大切さも見えてきます。書き留めることは保護者などへの共有になるのはもちろん、子どもたち自身の「学びの履歴」にもなる。過去の遊びで蓄積された「知」が、新たな物語を生み出していました。

さらにこうしたものづくりは、昨今注目される『STEAM教育』の、まさに一つの実践であるようにも感じました。

STEAMと聞くと小学校以上の教育を思い浮かべる方が多いと思いますが、実は幼い子どもたちも遊びのなかで、研究者や哲学者のように何かを考えたり、エンジニアやアーティストのようにつくったりするわけです。

そのとき、子どもたちが「これをやりたい」と思うものの設計図を書いて、園にある空き箱や廃材をたくさん使って、先生も「あんなものがあったらいいかなぁ」と考えて——これはまさに、幼児教育におけるSTEAMですよね。

STEAM教育

大豆生田ここで気をつけたいのは、「どうやって発展させよう?」「落としどころはどこ?」なんて考えないことです。急いで大人の“手のうち”に持ってこようとすると、活動がどんどん子どもたちのものじゃなくなっていきます。

また、よくある“ファンタジー”に持っていく保育も注意が必要ですね。ロケットだと、すぐに「宇宙人がやってきて……」なんて話にしてしまいがちですが、子どもたちは「本気で」ロケットを飛ばしたがっているわけです。

そこに本気で寄り添うには、子ども一人ひとりの発想と同時に、「先生一人ひとりの発想も大事にしていくこと」や「親たちや地域の方々も一緒になってワクワクしていくこと」が求められる。「子どもが世界を相手にしていく」さまを支える意味で、保育は本当に大切な仕事であると言えるでしょう。

どこの園でも変われる

大豆生田こうした話をお伝えすると、よくお聞きするのが「うちでは無理です」「一斉保育ですし、うちの先生たち全然分かってくれないですし……」といった意見です。でも、本当にそうでしょうか。

私は「どこの園でも変わっていける」と確信しています。その手応えを、実際に全国のいろんな先生方と分かちあっています。

例えば、自治体と一緒にやっている取り組みに「往還型の研修」があります。15時間の『保育士等キャリアップ研修』の仕組みなどを活用して、3時間×5回の研修を用意し、自分の取り組みを参加者同士で報告しあうものです。

「ドキュメンテーションをやってみたい」「お散歩を変えてみたい」「環境をもっとこんなふうにしてみたい」——本当は自分がやりたいと思っていたことを素直に挙げて帰ってもらうと、みんなが次に成果を持ってきます。それを繰り返すうちに、先生方がどんどん楽しく、ワクワクした気持ちになっていくんです。

横浜市が発表した園内研修リーダー育成研修の内容横浜市が発表した園内研修リーダー育成研修の内容より

大豆生田この研修が今オンラインを通じて横浜市、広島市、世田谷区、鹿児島県、広島県、栃木県、沖縄県……と、全国に広がりつつあります。

ICTを活用したドキュメンテーションの導入に取り組んだある園では、半年間のオンライン往還型研修で、子どもを見るまなざしが大きく変わったそうです。最初は「写真ってどこを撮ればいいですか?」「忙しいのに無理ですよ」などと言っていたのが、次第に育ちや次の保育を語り合うようになり、保育が変わっていった。

そうした取り組みをみて、自治体もドキュメンテーションを保育日誌として認めるところが増えています。監査でむしろ「これはすごい」などと言われるようになっているんですね。

ドキュメンテーションの導入は保育の質の向上に繋がっている

大豆生田今回のテーマは「保育が変わる」でしたが、私が大事だと思うのは、無理に何かを大きく変えようとするのではなく、自分自身の「こうしてみたい」の気持ちに素直になることです。まずは自分らしく試行錯誤をしていくところから、全てが変わります。

当然そこには悩みも生まれるでしょう。けれど一方では、子どもから教えてもらったり、同僚や保護者の声に支えてもらったりすることもたくさん出てきます。

そのとき大切になるのが、「ああすごいな」と驚き、リスペクトして見ること。これは地域や自然との関係性も同じかもしれません。私たちを取り巻くさまざまな社会問題、環境問題を考える出発点も、やはり先生方一人ひとりの共感から始まるように思います。

その子はその子らしく、私は私らしく。自然も人も「みんな違う」と捉えるところから、始めていけるといいのではないでしょうか。

大豆生田先生のメッセージ

※ 90分の講演内容から、大豆生田先生のメッセージを記事として再構成しました

講師:大豆生田 啓友(おおまめうだ ひろとも)
玉川大学教育学部教授。青山学院大学大学院を修了後、幼稚園教諭などを経て現職。専門は乳幼児教育学、保育学、子育て支援。NHK教育「すくすく子育て」に出演。著書に「あそびから生まれる動的環境デザイン」「21世紀型保育の探求ー倉橋惣三を旅する」など多数。
企画・主催:大友 剛(おおとも たけし)
ミュージシャン&マジシャン&翻訳家。「音楽とマジックと絵本」で活動。NHK教育「すくすく子育て」に出演。東北被災地に音楽とマジックを届ける『Music&Magicキャラバン』設立。著書に「ねこのピート」「えがないえほん」「カラーモンスター 」など多数。YouTubeで発信中。

(構成・執筆/佐々木将史

<『冬の保育アカデミー』の続編となるセミナー『春の保育アカデミー』が、2021年5月に開催されます(Peatixにて受付中)。すべての講演で6月末まで見逃し配信に対応、団体申し込みの場合は臨時職員・保護者への無料招待つき。詳しくは下記サイトをご覧ください>

保育アカデミー公式サイト

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おむつのサブスク手ぶら登園( https://tebura-touen.com/facility )とは、保護者も保育士も嬉しいおむつの定額サービスです。手ぶら登園は、2020年日本サブスクリプションビジネス大賞を受賞し、今では導入施設数が1,000施設(2021年6月時点)を突破しています。

保育園に直接おむつが届くため、保護者はおむつを持ってくる必要がなくなり、保育士は園児ごとにおむつ管理をする必要がなくなります。

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