手ぶら登園保育コラム

保育園の運営に役立つ情報を発信

【第三回】小崎先生オンライン相談会~小崎先生から学ぶ子育て支援の捉え方~

小崎先生オンライン相談会小崎先生から学ぶ子育て支援

コロナの影響により、園運営の方法も大きく変化した昨今。在宅勤務が普及し保護者の勤務形態も多岐にわたり、数年前とは違った配慮が必要な場面も増えています。日々、園としての方針や基準を設け、模索しながら園運営をされていることも多いと思いますが、「子育て支援」に関しても様々な意見があるのではないでしょうか。

小崎先生オンライン相談会第三回は、認可保育施設の園長先生から、「子育て支援の線引き」についてのご相談です。保育士間でも様々な意見がある中で、園運営にどのように落とし込むべきかを解説いただきました。

第三回は小規模保育施設の園長先生から、「子育て支援の線引き」についてのご相談です。

新しいサービス導入の壁

園長:私自身は子育て支援の一環として、手ぶら登園や、コドモンなど、新しいサービスやツールを入れていきたいと思っているのですが、保育歴の長い先生に、「そこまで保護者に楽をさせなくていいのではないか」と意見を頂く機会が多くありました。手ぶら登園に関しても、「おむつの準備、名前を書くっていうのも子育ての一環なんだから、そこの機会を奪って、保護者は園に子どもを預けて何を担うのか」という考えのようでした。

現役で子育てされている共働きの先生は、「できるところは軽減して欲しい」という考えで、「どんどんそのようなサービスを入れていこう!」と賛成してくれました。現場の先生方の間でも温度感に違いがあるし、実際に新しくサービスを入れるにあたっても、どこまでそういうサービスを取り入れていき、子育て支援をしていけるのかなというのを悩んでいます。

小崎先生:新しいサービスやツールの導入に関して、賛否両論あるのは当然であると思います。実は保育においても同じことが言えます。昔は保育時間というのは8時間預かりが主流で、9時から17時までもしくは、8時から16時までみたいなイメージでしたが、それが社会のニーズや働き方、雇用環境、市民の意識の中で変化していき、「延長保育」でトータルの保育時間が変化していっています。

子育ては親の仕事なのか外注のサービスなのかというところで議論がでてきますが、結局は、子どもを育てることの主体は誰であるかということが議論されていないと、色々な意見が出ると思います。

多様に選べる体制で保護者が選択すればいい

小崎先生:2015年に「子ども子育て新制度」がスタートして「子ども子育て支援法」という法律ができ、子どもを育てる責任は「父母その他の保護者が第一義的責任を負う」と明記されました。児童福祉法にも父母とは書いていないけれど、「保護者が第一義的責任を負う」ということで基本的な責任は親が負うんですよということが日本の法律、制度の根幹にはあるんですよ。

では、それ以外のところはどうなのかという議論ですが、個人的には多様であるべきでそれを親がどう選ぶかは、親が考えて意識をすればいいのではないでしょうか。親が責任を持って選択していけば良いことであって、保育というサービスを考えたときに、園でどこまでするかというのは園の判断であって良いと思います。

子育てや保育なんて明確な正解なんて無いでしょう?

もっと言うと子どもだってこうしたらこうなる、ということは絶対にない。そしてそれは、子どもを育てる親もそうだと思います。

小崎先生:おむつに関して言うと、昔は基本的に自宅から布おむつを持ってきて、おむつカバーも用意して、保育施設で替えて、軽く洗ったものをどんどん詰めて、溜まったものを保護者が自宅で洗って利用していました。

そのあと市場に紙おむつが出てきましたが、未だに布おむつを利用しているという園もあります。それは子どものためにいいとか、子どもの排泄と布おむつの親和性というところで保育の理念を大切にしているということですね。園によっては、布おむつが良いからと、布おむつを全部園内で洗濯しているところもあります。すごい量ですよね。でもそれは、サービスと保育の理念とのバランスなので、安易にこれがいいとか、あれがいいとかいうことはありません。

社会の流れを理解して保育施設も変わっていくべき

小崎先生:それを思うと子育て支援の線引きをどうするかというのは、まさに園の理念。園の保育士の考え方とか想いは分かりますが、社会がどんどん変化していく中で保育だけが変化していかないなんてことは有り得ないので、その意味では今の社会がどういう風に変化していっているのかというのを理解していくことが必要かなと感じます。

先ほど園長先生がお話いただいたみたいに、ベテラン・年配の方からの反対意見が多いというのは社会状況だとか、昔の自分の子育てや保育の体験をベースに考えているのであれば、「ちょっと今の状況とは違うよ」と伝えてあげたらいいのではないかなと思います。

園長:今は、保護者様も家庭の形も色々だし、色んなサービスが出てきていて、情報過多になっている気もします。何が正解か分からない局面が多くあり悩んでいました。

保護者の支え方を園の方針として決めておく

小崎先生:昔は育児の情報を得ることが子育てのひとつのリテラシーであったが、今はたくさん情報があるので取捨選択していくとか、あるいは「見ない」という選択肢があっても良いと思います。

子育て支援の線引きについては、法人で答えを出せばいいと思います。うちの園はここまではしますけどここからはしません、という線引きをしていく。それはあくまで線引きなので、子どもも家庭も一人ひとり違うから考慮していかないといけない。

児童福祉法の中には、保育士の仕事というのは、「子どもの保育および保育に関する保護者への指導」という記載があります。保育士の仕事のひとつは保護者への指導。でもそのような時に個人で指導するのではなく、法人が園としてこのような姿勢で、こういうサービスを使って保護者を支えていきますよ、ということを意識したらいいのかなと思います。保育のことは一生懸命お考えになっていると思うので、これからはそれと同じくらいのレベルで保護者への関わり方、サポートのあり方というのが必要になってくるのではないかなと思います。

  

多様な子どもたちに対応するには多様な職員集団が必要

小崎先生:もうひとつ、ジェネレーションギャップの問題は、議論が大事。保育は経験主義で、経験という部分がとても重要な要素ではあるけど、それがすべてではない。例をあげるとしたら、オリンピックでは10代の若い世代が金メダルをとることもありますよね。

一般法人でも、色々な経験を持って途中入社であったりとか、流動的になってきたときに、年齢だけや、その業界の経験値だけですべての能力が測れるわけではありませんよね。そこはこれから保育が変化していく中で考えていってほしいなと思います。多様な子どもたちに対応していくために何が必要かというと、多様な職員集団です。

年配の先生や若い先生もいれば、男性の先生、女性の先生もいる。色々な価値観を持った人たちが子どもたちを受け入れるようになると考えると、むしろそのギャップを利点と捉えるほうがいいのではないかと思います。例えば保育で活用するダンスであったり、曲であったり、全然違うものを選択できる多様性を意識されたらいいのではないかと思います。そしてベテランの方々がもっと、組織や人材育成とかを考えていくことが大切だと感じます。

小崎先生:私は保育学を教えているけど、保育の現場は保育学ではなくて、保育道。背中を見て学んでいくような感じで、いちいち教えてはくれない。でもそれでは人は育たない。そういう意味では、やはりベテランの人が自分の経験とか、社会人としての経験をうまく若い人たちに伝えていってほしい。

今、保育の中でキャリアパスという新しいマネジメントが入ってきている意味を考えてほしいなと感じています。キャリアパスのマネジメント研修を受けた先生方にそういうことを意識して考えてほしいですね。

マネジメントは基本的にミドルリーダーしか受けられません。国の考え方で言うとおおよそ7年以上の経験者にあたります。そういったベテランの先生方が組織や人材育成、運営のことについて考えていかなくてはいけないのに、若い先生が役に立たないとか、この子はダメとかっていう考えをしていると、保育業界自体が発展しなくなってしまいます。

園長:多様性という部分は園に持ち帰り、職員にも話していきたいと思いました。

保育所保育指針、『保護者支援』が『子育て支援』に変更

小崎先生:「トイレとレーニング」という言葉に対しても私は気になっています。子どもの発達や性格の中でトレーニングにしなくてはいけないものはない。トイレトレーニングの本質は何かをきちんと考える必要があります。親が楽をしたいがために、一生懸命トイレトレーニングをしているっていうのは全くもって本末転倒。子どもが自分の心と体をうまくコントロールしていくためのものである、ということをきちんと理解していてほしいと思います。

ちなみに、保育所保育指針は2018年の改定で『保護者支援』という単語が全て『子育て支援』という単語に変わりました。そう考えると、保育の本質というのは決して親を楽にさせることではありません。子どもがより良く育つために保育というものがあるし、そのために保護者との関わりを良くしてもらう。保護者の負担を軽減というのは言葉としては分かるし、現実はそうであるけれども、理念的には決してそうではない。

小崎先生:ただし、親が子どもとしっかり向き合う時間を作ったり、関わるタイミングを増やすために保育にかかわるものを簡素化していったり、サービスを提供していくこと自体は悪くはないと思います。また、年配の先生の立場からすると、「親は何するの?」となる気持ちも想像はできます。長いところだと、延長保育含め13時間開所している園もあります。晩ご飯も提供している。日本では認可で夜間保育をやっているところが60園くらいあり、そこではお風呂にも入れている。夜11時、12時まで開所していて、それでまた翌日も朝から保育施設に来るのだから、朝ごはんを食べさせたらあとは全部園でやってくれる。

だから年配の先生方に言わせれば、「親は何やっているの?」ということになりますよね。しかし、調査して分かったことですが、ここがなかったら子どもを育てることができないという方もいるのです。やはり保育の現場が最後のセーフティーネットを担っているという側面もあるんですね。

だから、多様な家族、子ども、親、それぞれの立場を考えたときに表面的に見えていることだけで、「親が楽するだけだろう」というような言い方は、保育士としてはいかがなものかという視点もあります。ただ、色々な家庭があるから、なかなか難しい。ほんとうに楽をしている人だっているとは思う。「保育が必要」という定義を考えたときに、お仕事がお休みの場合でも、家のことがあるという理由で標準時間の預かりを利用するのは良いと思うけど、延長利用となるとまた話は別ですよね。

各家庭の経済状況への配慮

園長:少子化が進むにつれて、保育施設も選ばれる側になってきているのかなと思っています。だから新しいサービスの導入は、保護者に選んでいただける一つのポイントになるのかな。

小崎先生:サービスを保育施設がどう捉えるかですね。保育では『子どもを育てる』ということがベースになっていくわけだから、あえて布おむつを使うっていう考え方もある。そこが『保護者にとってのサービス』という視点になると、従来の保育とは違うサービスを付与するという形になります。ご飯の材料を園から送るとか、給食作って渡すということも、方向性としては一緒だと思います。

それをどこまでするかとか、ニーズがあるのかとか、特に年配の先生方の中には、紙おむつ自体にまだ抵抗感のある人もいるでしょう。保護者にとっては「ありがたい」となりがちだけど、別の見方をすると、サービスをお金で買ってるわけですよね。そこで保育として難しいのは、各家庭の経済状況です。

小崎先生:昨年の年収によって保育料の負担額が変わってくる中で、全員一律のサービス料金がかかるというのは、家計が厳しい家庭にとって負担が大きい。それは、これから様々なサービスを検討するにあたって、色々な意味で配慮しなくてはならないことです。昔、ある自治体の公立園では、「年度の最初にティッシュを2箱、雑巾を3枚持ってきてください」ということを全家庭にお願いしていましたが、生活保護世帯からはクレームが出たそうです。保育費用の負担はないのに、そこは負担しないといけないのかと。

だから、もしかしたら新しいサービスで保護者に料金負担がある場合、そのお金を出せない家庭からすると、明らかにサービスの差が生まれるということになりますよね。少し前までは保育料が全額無償だった方にとって、幼児教育の無償化に合わせて「給食費は全員実費負担です」となったことは、負担が増えたといえるでしょう。兄弟のいる生活保護世帯とかもありますからね。

園長:ありがとうございます。自園としての意見や法人としての考えをしっかりと軸にできるように改めて職員や法人と話をしたいと感じました。

まとめ

ひとつの園の中にも、様々な経歴や考えの職員がおり、保護者も1人として同じ環境の方はいない中で「多様性」という言葉はとても重要になってくるのではないでしょうか。根本的な保育方針は変えなくとも、少子化に伴い、園のおかれる立場も少しずつ変化してきている今、今後は時代の状況に合わせ柔軟な保育運営が問われることもあるでしょう。そのような中でも、適切な情報を選択し、時には判断していく必要があると思います。そんな時に専門家の助言はとても心強いものとなるのではないでしょうか。今後も、「迷い」を「確信」に変えられる機会が少しでも多くあることを願っています。

小崎恭弘
大阪教育大学教育学部准教授。1968年兵庫県生まれ。兵庫県西宮市公立保育所で初の男性保育士として12年間、保育に携わる。NHK Eテレ『すくすく子育て』をはじめ、テレビや新聞、雑誌など多方面で活躍中。年間通して全国で育児指南を披露する子育ての講演を行う。NPO法人ファザーリング・ジャパン顧問。『家族・働き方・社会を変える父親への子育て支援』『子どもの力を伸ばす!! じょうずな叱り方・ほめ方』など単著・共著多数。NECQA(保育士と保育の質に関する研究会)代表。

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