手ぶら登園保育コラム

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「モノの取り合いがクラスでよく起きるときは?」——小崎恭弘先生の“こんなとき保育でどうする”

「モノの取り合いがクラスでよく起きるときは?」——小崎恭弘先生の“こんなとき保育でどうする”

「こんなとき、子どもにどう接したらいいのかな…」

保育をしていくなかで、繰り返し目にするシチュエーションに戸惑ったり、とっさに子どもたちに言葉がかけられなかったりして、「これって大丈夫かな」「何て言えば良かったのかな」と悩まれる方は、少なくないでしょう。

この連載では、大阪教育大学・教育学部准教授の小崎恭弘先生に、現場で働く保育士からの、いろんな質問にお答えいただきます。

第5回は、「クラスで『モノの取り合い』がよく起こるのですが、どう関わったらいいのかいつも迷います」というお悩み相談。保育者として、どのような寄り添いを心がければいいのでしょうか。

【第4回はこちら】
「長い休み明け、何に気をつけたらいい?」——小崎恭弘先生の“こんなとき保育でどうする”

「取り合い」の裏に見える、二つの成長

そもそもなぜ、そしていつ「モノの取り合い」は起きるのでしょうか?

0歳児の赤ちゃん同士だと、さほどモノの取り合いをすることはありませんね。また、モノに対して「絶対的にそれじゃないとイヤ」と執着をせず、他のおもちゃを渡されても機嫌よく遊んでくれる場合がほとんどです。

しかし、成長が進むにつれて、この取り合いが起きてきます。そこで気づかされるのは、取り合いが生まれること自体が、(大人から見れば決して良いことではないかもしれませんが)子どもの「成長の現れである」ということです。

これは具体的に、二つの姿として捉えることができます。

– 1.「私」という自我の芽生え

モノを介しての取り合いができる前提は、「自分という確固たる存在がいる」ことです。自身の思いや感覚が、しっかりと確立している状態と言えるでしょう。

このような育ちを、『自我の芽生え』と言います。

乳児は自我が明確ではなく、少し極端な言い方をすると、授乳などを通じて「母親と自分自身が一心同体」のような感覚にあります。なので、あくまで親との距離や関係性にしか興味関心がありません。

そうした時期からの脱却の一つの合図が、「モノ」に対する感覚や意識なのです。これはおおよそ2歳児ぐらいから、活発に見られるようになってきます。

– 2.「自分の好きなものが欲しい」という所有の概念の育ち

もう一つは、「自分自身にとってこれが大切である」「このモノに愛着や興味がある」という心の育ちです。

保育室にあるおもちゃであれば、何でも良いのではありません。自分自身が気に入っているもの、それ自体に対する“気持ちがある”ことが、取り合いの大きな要因となるのです。

これは、「大好きなものを持っておきたい」という欲求が生まれていることを意味しています。この『所有の欲求』は、人として自然に備わっているものです。

保育者の皆さんも、いろいろなモノに対して自分自身の思いやこだわりがあることでしょう。子ども同士で取り合いをするのは、同じような気持ちがきちんと育ってきているからだと言えます。

子ども1人だけでは、取り合いは起きない

このような子どもたちの成長の姿は、本来は保育において積極的に認め、喜ぶべきことです。ただし、このモノへの関心があまりに強すぎて、大きなトラブルになるようでは困ります。

そこで、さらに大切になる視点が、取り合いは「子ども1人では決して起きない」ということです。書くと当たり前に見えますが、保育の中でのお友達とのモノ取り合いを『集団生活における葛藤場面』と考えると、すごく重要な視点であることが分かると思います。

例えば一人っ子などの場合、家庭の中でモノの取り合いなどは起きず、「全てが自分のものだ」という感覚の中で育っていくことがあるでしょう。おもちゃも自分の思い通りに、好きなタイミングで使うことができるのです。

子ども1人だけでは、取り合いは起きない

しかし、保育の活動の中ではどんなに自分が好きなモノであっても、他のお友達に使われていたり、自分が「欲しい」と思ったタイミングで使えなかったりすることが当然のようにあります。モノの取り合いはまさに、こうしたときに起きているのではないでしょうか。

つまり、取り合いになることは、ある意味で「集団の中でしかできない経験・体験を通じて、子どもが育つ絶好のチャンス」とも言えます。モノの取り合いを経て、子どもたち自身が人との付き合い、社会や集団のルール・約束事などを学ぶことができるのです。

では、クラスでこのような事態が起きたとき、保育の手立てとしてどう対応を考えれば良いでしょうか。大きく二つの視点で、具体策を示したいと思います。

対応① 保育環境の整備

取り合いが起きたときに、まずは「子どもの数に対して、おもちゃなどが少な過ぎないか」という点を考える必要があります。子どもの数とおもちゃの数のバランスは、こうしたトラブルに大きく影響を与える要因だからです。

もちろん、中には「自分1人でたくさんのおもちゃを独り占めしたい」子もいるので、必ずしも数だけが問題ではありません。しかし、それでも理想としては、クラスの子どもたち一人ひとりに十分な数のおもちゃが行き渡るようにしていきたいものです。

加えて、部屋のスペースの余裕、あるいは他にどのような保育用品があるか、それらの置き方の工夫はどうかなど、様々な『環境構成のあり方』が影響を与えます。予算の制約もある中で、常に“ベストな環境”を整えることは難しいかもしれませんが、クラス内でのモノの取り合いが多いときは、一度根本的に室内のおもちゃや保育用品の構成を見直していいタイミングなのかもしれません。

豊かな物的環境を整えていくことで、子どもたちのトラブルを根本的に減らしていくことができます。まずは「物的環境の脆弱さがモノの取り合いを誘発している」可能性を、保育者としては意識してほしいと思います。

対応② 子どもの育ちにつなげる保育者の援助

物的環境とは別に、保育の援助として、「取り合いをしている子どもたちの気持ち、または育ちに着目していくこと」も大切です。

今回のようなトラブルがある場合に、保育者としてつい「どちらが正しいか?」と判定をしてしまうことはないでしょうか。例えば、

「これは〇〇ちゃんが先に使っていたモノ」
「いつも〇〇ちゃんが遊んでいるもの」

などと言う感覚です。

このこと自体が決して悪いわけではありません。ただ、年齢にもよりますが、モノの取り合いは「人との関わり」を学ぶ良き機会なのです。自分の気持ちを整理して「おもちゃが欲しい」と言葉にしたり、相手がいる事実を捉えたり、解決法を一緒に考えたりすることが重要であり、単に「その場かぎりの判断や判定」のみで育ちが強まるとは思えません。

対応② 子どもの育ちにつなげる保育者の援助

保育者の皆さんも、様々な場面で、そうした状況に出くわすと思います。絶対的な正解があるわけではありませんが、ここではいくつかのポイントを示しておきます。

  • 前後の流れを確認する
  • 両者の思いを大切にする
  • 「正しい」判断ではなく、「納得できる」方向性を考える
  • 不平等にならないようにする
  • 話し合いや譲り合いなど、いくつかの方法を提示したり一緒に考えたりする

こうした点を押さえながら、保育の中では「モノの取り合い」が決してダメなものではなく、子どもたちがより豊かな人間関係を学ぶチャンスと捉えてほしいのです。

合わせて、できるだけそのような場面が多発しないよう配慮や構成を行うことで、子どもたちにとって不必要な葛藤や争いのない、安心できる保育環境を実現していただければと思います。

小崎恭弘
大阪教育大学教育学部准教授。1968年兵庫県生まれ。兵庫県西宮市公立保育所で初の男性保育士として12年間、保育に携わる。NHK Eテレ『すくすく子育て』をはじめ、テレビや新聞、雑誌など多方面で活躍中。年間通して全国で育児指南を披露する子育ての講演を行う。NPO法人ファザーリング・ジャパン顧問。『家族・働き方・社会を変える父親への子育て支援』『子どもの力を伸ばす!! じょうずな叱り方・ほめ方』など単著・共著多数。NECQA(保育士と保育の質に関する研究会)代表。

(編集:佐々木将史)

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