手ぶら登園保育コラム

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公立園が「おむつの持ち帰り」を止めた理由。“慣習”を疑う三宅町の実践

公立園が「おむつの持ち帰り」を止めた理由。“慣習”を疑う三宅町の実践

園から自宅への「使用済み紙おむつ」の持ち帰り。多くの保護者を悩ませてきたこの問題に、近年少しずつ目が向けられるようになりました。

衛生面のリスク、保護者・保育者の負担などを踏まえ、処分方法を変える施設や自治体が出るなど、今少しずつ見直しが図られています。

保育園からおむつの持ち帰りをなくす会BABY JOBが運営事務局を務める『保育園からおむつの持ち帰りをなくす会』のプロジェクト。2021年6月の設立以来、すでに1万人を超える署名が集まっています

今回取材をさせていただいた三宅町(奈良県磯城郡)も、おむつの「園内処分」に踏み切った自治体の一つ。町立の幼保連携型認定こども園で、2020年7月から家庭への持ち帰りを中止しました。

それまで長く続けていたことを、どのように変えていったのか。実現の背景について、三宅町長の森田浩司さん、健康子ども局・局長の植村恵美さんに伺いました。

「使用済み紙おむつの持ち帰り」見直しの背景

——最初に、町として「使用済み紙おむつ」の持ち帰りをなくそうと考えたきっかけを教えてください。

森田:三宅町は全国で2番目に小さい町ということもあり、いろいろな世代の声が直接耳に入ってきます。そういったなかで、子育て中の方々から「おむつの持ち帰りに困っている」という話をリアルに聞いていました。

私自身は園からの持ち帰りを直接経験していないのですが、例えば夕方家に帰ってごはんの準備をしようとしたときに、カバンから子どもの使ったおむつがゴロゴロ出てくるとしたら、それは嫌だろうな……と。

なので町長に就任以来、植村局長には「何とかなりませんか?」と相談していたんです。

奈良県三宅町町長の森田浩司さん(左)、健康子ども局・局長の植村恵美さん(右)

奈良県三宅町町長の森田浩司さん(左)、健康子ども局・局長の植村恵美さん(右)。オンラインでお話を伺いました

——そもそも、なぜ持ち帰りになっていたんでしょうか?

植村:歴史的なことで言えば、紙おむつが普及する前はみんな「布おむつ」を使っていたので、持ち帰る以外に方法がなかったんです。それが紙おむつになってからも続いていたんですね。

もちろんそこには、「保護者が子どもの体調管理をできるように」という意味も込められてました。昔は園にデジカメなどもありませんから、排泄物が気になったとして、現物をお渡しする以外に方法もなかったんだと思います。

——当時の事情が慣習として続いていたんですね。

植村:もう一つの問題は、衛生面です。何十人の子どもたちのおむつをまとめて捨てるとして、週2回のごみ回収を待っていては、夏場など大変なことになります。

別で処分するにしても、予算がない。園内処理に関していくつかの課題が残っており、なかなか実現することができませんでした。

行政内の連携から、コロナ交付金を活用

——以前から続いていた課題を、どうやってクリアしたんでしょうか?

森田:きっかけはコロナ禍です。初期の頃はエビデンスもなく、何が原因で感染するかもよくわからない。「園から持ち帰るものを通じて、家庭に感染を広げてしまうのでは」という問題意識を強く持っていました。

そんなとき、住民のみなさんに対してできるコロナ対策を議論するなかで、臨時交付金を「おむつの持ち帰り」に活用するアイデアが出てきたんですね。

植村:備品や処理そのもののコストに対して、コロナ対策の予算を使うことができる。そういった話が、交付金を取りまとめている課からありました。

——お金の面の課題に見通しが立ったんですね。

植村:同時に、廃棄してくれる事業者を探していく過程で、思いも寄らない連携も生まれました。ごみ回収を行っている担当課に業者さんの紹介を頼むと、「いや、それぐらい自分たちでやるよ」という申し出があったんです。

「それが、通常の週2回だと衛生面で厳しくて……」と相談したら、他の地域を回っている曜日も、園には必ず回収に寄ってくれることになったんですね。町内に1園しかないから対応できた、とも言えますが、そもそも「自分たちの町の園だから」という思いを担当者が持っていてくれたから、快く引き受けてもらえたのかなと感じました。

森田:関係者のスムーズな連携は、今回の一つのポイントだったと思います。交付金のアイデアを出してくれたのは政策推進課ですが、子育て関連の施策にもしっかりアンテナを立ててくれていた。

ごみ回収の環境衛生課、もちろん植村局長の健康子ども局にしても同様です。状況を見ながら臨機応変に対応してくれたことで、長年課題だったおむつ処理の問題が一気にクリアできたのだと考えています。

“そもそも”を問い直し、小さくチャレンジ

——今回のような改革では、実際に運用を行う園の同意も要ります。現場の保育者の方々は、どんな反応でしたか?

植村:当初は慎重な姿勢でした。一斉廃棄するためにおむつをまとめたり、回収ボックスまで持っていったりする業務が「負担の増加になるのでは」という懸念を生んでしまったようです。

実際にはそれまで、「◯◯ちゃんのおむつを、きちんと◯◯ちゃんのバケツに入れる」といった管理の手間が別に発生していたんですが、両者の比較イメージがなかなか持てなかったのだと思います。

——どのようにその懸念を解消したのでしょうか?

植村:「まず単年度でやって、様子をみましょう」と話をしました。保護者の賛同が得られなかったり、保育者の負担が増えたりするようであれば、また来年度戻せばいいからと。

結局はやらないと分からないので、とりあえず試してみることが大事だと考えました。

——持ち帰りには、「保護者が子どもの体調を確認する」という目的もありました。この点はどうクリアされましたか?

植村:それも、改めて保護者の身になってみたときに「本当におむつを持ち帰ってもらう必要があるのか」と考え直してもらったんです。

そもそも汚れたおむつをわざわざ広げて、毎日確認している保護者がどれぐらいいるだろうと。もし仮に気になる便があったのだったら、写真に撮って共有すればいいですし、体調に関しては連絡ノートや会話のなかでいくらでも情報を交換することができます。

そういった疑問を率直に投げかけていった結果、園側でも「園内で処分するほうがいいかもしれない」と話がまとまりました。

森田:「誰を向いて仕事をするか」をみんなで問い直したことが重要でした。保育者を向くのか、保護者を向くのか。私たちとしては、最後はやっぱり子どもの笑顔に返していきたいと思うわけです。

互いの手間やストレスが減ることで、それが実現できる可能性があるのであれば、見直しに手をつけてみる。「困っている」という声は実際に以前からあったものなので、まずそこに向き合い、生まれた結果がどうかを見ていくことが大事だと考えました。

「これをやる」と決めて、みんなで解決していく

——調整が済み、年度の途中から園内処分に切り替えました。みなさんの反応はどうでしたか?

植村:一言で言うなら、「めちゃくちゃよかった」。特に保護者は、非常に喜んでくれましたね。アンケートでも「カバンが臭くなくなった」「このまま続けてほしい」という声がたくさん寄せられて、本当に嫌だったんだ……と改めて実感しました。

園も同様です。業務負担が軽減されて、ずいぶん楽になったと聞きました。止めて気づいたことですが、おむつを一人ひとり間違えないよう管理するのにも、実は現場の保育者がすごく神経を使っていたようです。

——まだまだ持ち帰りを行っている施設も全国にはあります。三宅町さんのような動きが、もっと増えるといいなと思うのですが。

森田:これは隠れた「社会課題」だと私は感じています。本当はあちこちの園で、保護者も保育者も困っているんです。今回、みんなのストレスを減らすことができて本当に良かったと感じています。

植村:持ち帰りに割いていた負担がなくなった分、子どもたちにより目を向けられるようになります。今回のことが、保護者と保育者が日々きちんと話をする一つのベースになってくれたらと考えています。

——今回の見直しは、検討から実行まで、とてもスムーズにいったように見受けられます。うまくいった要因を、最後に改めて教えていただけますか?

森田:持ち帰りの問題を「絶対にやる」と決めたことだと思います。行政運営のなかでは、もちろん全部が全部できるわけではありません。そのなかで交付金の話が出てきたときに、明確に「優先順位」を上げて対応したことが、スムーズな連携につながったと考えています。

もう一つは、植村局長の話にもあったように「慣習を疑った」ことです。もちろん、そこに理由があってやらないといけないのであれば続けたらと思いますが、深い理由がないのであれば、思い切って止めてしまう。「なぜ今やってるのか?」を明確に問い直して、みんなで共有したことが、園内処分を進めるうえでとても大事なポイントだったと感じています。

取材後記

公立施設ならではの難しさも抱えながら、結果的にスムーズな切り替えを行うことができた今回の事例。「使用済み紙おむつ」の問題を解決する方法だけでなく、慣習を見直し、水面下にある「社会課題」を解決していく点でも非常に参考になるお話でした。

三宅町はこの取り組みにあわせ、コロナ対策の交付金を活用して、おむつを定額で利用できる『手ぶら登園』も導入。次回の記事では、その背景について詳しくお聞きしていきます。

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