手ぶら登園保育コラム

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保育者×保護者の『パートナーシップ』で、子どもの未来をつくる——NECQA・1万人研究のねらい

保育者×保護者の『パートナーシップ』で、子どもの未来をつくる——NECQA・1万人研究のねらい

保護者の信頼を得ている保育園は、どんなところでしょうか。

よい理念があって、深い子どもの理解があって、質の高い取り組みがあって……。もちろんその通りなのですが、NECQA(保育士と保育の質に関する研究会)ではあえて、保育者の「働き方」に着目しています。

抱いているのは、「保育者が生き生きと働けている園ほど、保護者の評価も高いのではないか」という仮説。これを示すことができれば、各園がさまざまな形で行う実践を“裏側”から支えられるのではと考えてきました。

NECQA

2021年10月からスタートする『保育者の職務満足度と保護者満足度の関連性の検討』のためのアンケートは、それを大規模な形で調査していくものです。全国の1万人を対象として、より確かなデータの集積、影響力のある報告を行うことを目指します。

では、今回の研究の先に、保育の世界にはどんな変化の可能性があるのでしょうか。

立ち上げの想いを、NECQA代表の小崎恭弘さん(大阪教育大学教育学部 教授)、研究責任者の野澤祥子さん(東京大学大学院教育学研究科 准教授)、研究員の上野公嗣さん(ベビージョブ代表取締役会長)にお聞きしました。

『保育者の職務満足度と保護者満足度の関連性の検討』の背景

——この調査は、「保育者」と「保護者」それぞれにアンケートを取るものだと聞いています。どのような調査になるのでしょうか?

小崎:今働いている、あるいは子どもを預けている園での保育について、さまざまな項目で数値評価をいただき、結果の関連性を探るものになります。

「保育者が充実感を持って仕事をすることで、子どもたちにいい保育が提供でき、保護者の満足度も高くなるだろう」……とは、今までも多くの人が感じてきました。ただ、そのエビデンスを研究ベースで明確にしたものはなかった。

今回大規模な調査を行うことで、そこのつながりを明らかにできればと思っています。

小崎恭弘さん

小崎恭弘さん。大阪教育大学 教育学部 学校教育教員養成課程 家政教育コース 教授。NECQA代表。公立保育士として12年間の現場経験を持つ。専門は保育学、子育て支援など。NPO法人 Fathering Japan顧問

——この研究に着目した、最初のきっかけは何だったのでしょうか?

上野:そもそもの始まりは、私が保育園を開いたときの経験です。待機児童問題に悩む方を応援するために保育園をつくろうと考え、評判の園をたくさん見させていただきました。

ただ、いろんな園長先生にお話を聞くと特徴がぜんぶ違うんですね。教育の形から園舎へのこだわりまで実に多様ななかで、唯一共通していたのが「保育士さんが元気だな」という印象でした。

これはつまり、保育者が元気に働ける環境がつくれれば、みんなに愛される園になるのではないか。そう思って以後やってきたことを、今後の時代を見据えて証明しておきたいと考えたんです。

上野公嗣さん上野公嗣さん。ベビージョブ株式会社代表取締役会長、ぬくもりのおうち保育株式会社代表取締役会長。NECQA研究員。大阪総合保育大学大学院博士課程 児童保育研究科 児童保育専攻

——「今後の時代」というのは、少子化が進み、待機児童がなくなる社会ですね?

上野:そうです。園が園児をどう集めていくかを模索していくときに、まず考えられるのは「保護者ニーズに応えよう」という動きだと思いました。ただ、そこに短絡的に応えようとしすぎると、保育者の負担がどんどん増えていく。

その結果、保育者が働きづらくなり、子どもにも保護者にも「良い場所と言えない」園が増えてしまわないかと感じたんです。働く環境と保育者満足の関係を今きちんと調べることに大きな意味があるのではと考え、小崎先生や野澤先生にご相談をしました。

『パートナー』としてのあり方を、根底から見直す

野澤:保育者と保護者の関係については、私も研究の必要を感じていました。というのも特に日本においては、本来『パートナー』であるはずの両者が、「片方だけ強くなり過ぎてしまう」状況があったからです。

1つは、園が「サービスを提供する」立場に回った結果、保護者が“お客様”扱いされていく場合。まさに上野さんが話したように、保護者が「サービスを受ける」立場として優位になり過ぎてしまうケースが見られています。

もう1つは、逆に園が「支援する」機関として、保護者よりも上に立ってしまう場合。親の孤立化の問題などから近年、子育て支援の重要性がクローズアップされています。それに従って、保護者が園に「支援してもらう」弱い立場に置かれるケースが見られるようになっていました。

野澤祥子さん 野澤祥子さん。東京大学大学院教育学研究科 准教授。『保育者の職務満足度と保護者満足度の関連性の検討』研究責任者。専門は発達心理学、保育学など

上野:野澤先生の指摘した『パートナー』の関係性は、この研究の大きなテーマです。OECD諸国では、保育者と保護者のパートナーシップと、保育の質の関連がすでに示されているんですよね?

野澤:そうです。日本でも同様に、両者のパートナーシップのあり方が子どもの育ちにどのような影響を与えていくのか、検証していく必要があります。

保育者と保護者が対等な立場で向き合っているような関係もある一方で、対立構造になってしまうケースもある。その原因や、起きている事象と保育の質の関連性、うまくいっている園の要因などを、この研究できちんとデータとして示せればと考えています。

保護者向けアンケートの一部保護者向けアンケートの一部

小崎:私は保育者に向けた研修をよくさせていただくのですが、やはり園の先生方が保護者に対して、過度に怯えているよう感じます。一方で、威圧的な職員の雰囲気に保護者が怯える事例も耳にするんですね。

上野さんや野澤先生の話は、そうした「バランスの悪さ」のなかで日本の保育が発展してしまったことの現れなのだと思います。これを両者の立場から見直すことが、今回の研究の大きな意義です。

どのような結果が出るかは調査してみなければわかりませんが、子どもにも保育者にも保護者にも良い、近江商人の「三方よし」のようなイメージを示すことができればと考えています。

——パートナーシップという言葉は、今の時代に大きな意味を持つように感じます。

小崎:行政と市民の関係など、社会全体で見ても重要なキーワードです。その概念を保育からうまく発信することが、とても大切なのかなと感じます。

子どもたち自身にとっても、保育者や保護者の姿を通じてパートナーシップのあり方を実感していくことは、社会に出ていくときに大きな影響を及ぼすのではないでしょうか。

あらゆる場所で保育を考える“手がかり”に

——実際の調査にあたっては、保育者と保護者が園を評価しあうことについて、不安を覚える方もいると思います。

上野:確かに今回の『保育者の職務満足度と保護者満足度の関連性の検討』は、両者の回答を園単位・クラス単位で結果を紐づける点に独自性があります。これがこの研究のおもしろさであり、難しさです。

ですが、個人情報などは当然「アンケートデータ」としてのみ扱うため、特定ができないよう配慮しています。誰がそれを言ったかではなく、数字を通じて「保育者と保護者はお互いに実はこんなことを考えているんですよ」といったメッセージの形で発信できたらと思っています。

野澤:回答結果の分析チームには他にも複数のメンバーがおり、いろんな観点から考えるきっかけをみなさんに提示できればいいなと思っています。私たちから「こうすればいいんです」と言うのではなく、出た結果をもとに各園での保育のあり方を見つけいく、“手がかり”になる資料にしたいですね。

NECQA研究体制図NECQA研究体制図

小崎:両者の評価については、良い部分も悪い部分も何かしらの関連性があるだろうと考えています。ただ、最終的には保育者と保護者の意見を通じて、「子どもにとってどういう環境であればいいか」「そのために、どうすればより良い関係性になれるのか」という知見を示したいですね。

また今回、かなり規模の大きな調査にしたのは、社会的にも強いインパクトを与えたいと考えたからです。ご自身の意見がここに反映されて、実際に「新しい保育のなかで生かされていく」ということができればと思っています。

——全国の1万人から回答を得られれば、大きなメッセージになりますね。さまざまな活用もできそうです。

野澤:例えばOECDの国際比較調査では、日本の保育者が他国に比べ「社会的な評価が低い」「保護者から評価されていない」と感じている結果が出ているんです。今回多くの方にご回答いただくなかで、現状はどうなっているのか、またその原因なども詳しく探れたらと考えています。

小崎:保育者の方に自信がない、というのは私も感じています。本当はすごく専門性が高い素敵な仕事なのに、意外にみなさんそのことに気づいてない。「いやいや、私なんて」とおっしゃる方がとても多いんですよね。

この調査がきっかけで、保育者の価値がより社会に認められることにつながったり、保育者自身の評価を高める一因になったりすればとてもうれしいなと思います。

保育者向けアンケートの一部保育者向けアンケートの一部

変化のなかで「未来」をつくりたい

小崎:今回の研究には、「時代の変化」という大きな背景があります。特にこの5年ほどは、『子ども・子育て支援新制度』に伴う施設の多様化や幼児教育の無償化など、保育における“大転換”と言っていい時期でした。

もちろん、10年単位で行われる保育指針の改定の動きもすでに始まっています(前回は2018年施行)。待機児童も急速に減ってきた。社会が劇的に変化するなかで、新しい時代の保育を考えるための、新しいエビデンスが求められているんです。

上野:ここから10年で、さらに大きな変化が起きます。いよいよ保育業界も変わらざるをえない。そこに向けて、特に運営事業者の方に対して「保育士さんを大切にすることが、保護者満足につながるんだよ」というメッセージを発信できたらいいなと思います。

——運営事業者を含め、関わる全員が良い関係を築けるような研究にしたいと。

上野:自分自身の想いもありますし、社会的にも大きな意義を感じています。質問の一つひとつにも、関わっている先生方の想いが詰まっているんですよ。

準備にもすごく時間をかけてきました。本当は2020年に調査を行う予定だったんですが、コロナ禍でバイアスがかかることを懸念し、延期してさらに考えて。だからこそ、絶対に成功させたいと思っています。

小崎さん、野澤さん、上野さん

野澤:まさに時代の転換点にあるなかで、「良くなる」ことも「悪くなる」こともできるのが今だと考えています。そこで重要なのが、最初に実態をきちんと知っておくことなんです。

なので、みなさんにはぜひ、辛いなら辛いと、楽しいなら楽しいと率直に声を聞かせていただければと思います。それを大切に分析させていただきながら、「より良くしていくためにどうすればいいか」「どうすれば社会的な議論になるか」を考えていきたいですね。

小崎:私たち自身も何度も迷いながら、できるだけいい研究をと考えてここまで来ました。みなさんが納得できるようなデータをお示しすることで、次の時代の保育に良い影響を与えていけたらと思っています。

保育とは、子どもを育てると同時に「未来をつくる」仕事でもある。そこに良い影響を及ぼすことが、日本の未来、もっと言うなら世界の未来にうまくつながればいいなと思うんです。これまでないような壮大な研究だからこそ、私たちも夢を大きく持って臨みたいなと考えています。

(構成・執筆/佐々木将史

<一般社団法人NECQA>

NECQA 公式HP
https://necqa.or.jp/

保育者・保護者1万人アンケート特設サイト
https://necqa.or.jp/enquete

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