手ぶら登園保育コラム

保育園の運営に役立つ情報を発信

渋谷区公立園での手ぶら登園の事例〜2か月のテストを経て、全18園に導入〜

区内におよそ90園の保育施設を抱える、東京都渋谷区。うち18園を占める公立園には、保育施設向けのICTサービスや、企業などでも使われる情報共有システムを導入しており、新しい技術の活用に積極的です。

他の自治体に先んじて数々の取り組みを行い、「参考にしたい」との問い合わせも多く寄せられる同区が、今回新たに取り入れたのが『手ぶら登園』でした。2021年11月より2か月間、すべての区立保育所(18園)にておむつのサブスクリプションサービスのテスト導入が行われ、2022年1月より全園で正式に利用が始まっています。

導入の背景や実施した感想を、渋谷区の子ども家庭部保育課の中瀬さんと林さんに伺いました。

渋谷区の子育て支援施策について、特徴的な取り組みを教えてください。

ノートパソコンを使っている男性

低い精度で自動的に生成された説明

「保育の質」向上を目指すなかで、業務支援ツールなどを積極的に導入してきました。たとえば、保育施設向けICTツールの『CoDMON(コドモン)』を2019年から区立園に導入しています。東京都内の公立保育所では初めての試みでした。

また、2020年度には入園希望者の利用調整にAIを活用し始め、2021年5月から改善のための実証実験を、大学や企業と共同で行っています。あわせて、入園の申し込みに必要な申請から結果公表までの一連の流れをデジタル化するなど、手続きの簡易化についても検証を開始しました。

業務負荷の軽減以外に、保育サービスそのものを充実させる施策も進めてきました。保育所運営では、今後「保護者が園を選ぶ」時代になっていくなかで、区立園の園庭の芝生化を行うなど園ごとの特色を打ち出すことを意識しています。

さらに、保育施設の環境づくりだけでなく、妊娠期からお子さんが18歳になるまでのあらゆる子どもと家庭のサポートを目指し、「渋谷区子育てネウボラ」という拠点も2021年8月にオープンしました。

『手ぶら登園』を知ったきっかけを教えてください。

「手ぶら登園」を知ったきっかけは、渋谷区が取り組んでいる、官民連携の『Innovation for New Normal from Shibuya』プロジェクトです。運営を担う渋谷区グローバル拠点都市推進室が、そのエントリーの中に「こんな子育て支援のサービスがあるよ」と子ども家庭部保育課に伝えてくれました。

『手ぶら登園』を知ったとき、どう感じましたか?

家庭でおむつを用意していただくことが、実は保護者・保育所の大きな負担になっている現状を知り、驚きました。「もし自分が保護者の立場になったら、毎回おむつの準備をするのはやはり大変だろうな」とも感じ……。​名前を書くなどの準備やおむつの持参、それに伴う事務連絡の手間が減り、日々の持ち物も減らせるのであれば、導入したほうがいいのではないかと考え、職員間で相談を進めました。

『手ぶら登園』の導入にあたり、ハードルを感じた部分はありますか?

実際に現場で保育を行っている、各園の先生方の理解を得ることです。

渋谷区には公立の保育所が18園あり、新たなものを導入する際には、好意的な意見も、当然そうでない意見もいただきます。いかに全園に納得いただくかが、最初の課題でした。

課題解消のために、どのように取り組みましたか?

まずは、あくまで2か月の実証実験であること、正式に導入するかしないかは実証実験終了後に各園で選択できることを説明し、不安を取り除こうと意識しました。

また、全ての情報がきちんと伝わるよう各園とのコミュニケーションを丁寧に行うことを心がけ、まずは口頭で各園の園長に複数回に分けて説明しました。同時に、説明漏れを防ぎ、あとから保育士が見返すこともできるよう、具体的な内容についてテキストでも詳細を共有しています。その際には、普段から区で使っているコミュニケーションツール『Microsoft Teams』を用いました。

とはいえ、新しい事業を進めるときは、どうしても身構えてしまうものです。「かしこまった場だと言いづらいこともあるだろう」と考え、率直な意見を聞きに、保育所への訪問も行いました。その際、園にとっても負担軽減につながることをきちんと伝え、「保育課から協力をお願いする」というよりも「みんなで一緒に課題に取り組む」とイメージしていただけることを大事にしました。

なぜ全園でのテスト導入が実現できたと思いますか?

園長同士の横のつながりに助けられた部分があります。保育課からの説明を聞いた時点では、園ごとにサービスの理解に差があったなか、他園と自主的に情報共有をして、理解を深めてくださったという話を聞きました。

また、区民の視点に立って考えると、「同じ渋谷区が運営する園ならば、すべての園で体験できるのがベストではないか」という意見も多く、全園でのテスト導入に踏み切ることができました。

結果的に、全園で2か月のテストを行えたからこそ、その後も関係者のみなさんの理解を得られたのではないかと思います。

保護者・保育所の反応を教えてください。

導入後、お子さんの1人が公立園に通っているという保護者とお話する機会がありました。きょうだいがいるからこそ、毎回おむつに名前を書くのはとても大変だったそうで、「1人分書かずにすむだけでも、全然負担が違います。すごく楽になりました」とおっしゃっていました。

保育所からは、「導入前は大変なんじゃないかという不安があったけれど、やってみたら意外に楽でした」という声を複数の園からいただいています。「すごくやりやすいです」という保育士の声もたくさんありました。

『手ぶら登園』では、利用者分のおむつが直接保育所に運ばれてくるので、保育士が保護者におむつ持参を依頼するなど、日々の細かな対応もなくなります。「業務負担が減ったことがすごくよかった」という声も聞いています。

問題点はあまりないのですが、改善希望を挙げるなら、届くおむつの配送時間が指定できたら……という点でしょうか。それができれば、今後さらに保育所に喜んでいただけそうです。

導入してみての手応えや、今感じていることを教えてください。

ノートパソコンを使っている男性

中程度の精度で自動的に生成された説明

導入後、グローバル拠点都市推進室が渋谷区全庁に事例を周知した結果、保育所のおむつ対応の現状について「そんな大変な問題があるとは知らなかった」と反応をくれる人が出てきています。お子さんがいる方から直接、「自分の子どもが小さい頃にも、こんなサービスがあったら便利だったと思う」とコメントをいただくこともありました。

また、区立保育所という性格上そこまで意識はしていませんが、『手ぶら登園』のようなサービスを積極的に導入することは、保育所の「特色を作る」ことにもつながりそうだと感じました。

まとめ

今回は、渋谷区子ども家庭部保育課にインタビューをさせていただきました。丁寧な情報共有を経て、全公立園の理解のもと『手ぶら登園』を導入した渋谷区。それにより、保育士・保護者ともに負担が減ったという声を聞くことができ、とても嬉しく思います。

事務的な作業の負担が軽減されれば、そのぶん保育士が直接的に子どものために使える時間も多くなるはず。「保育の質」向上のためにも、『手ぶら登園』のような支援サービスを前向きにご検討いただけたら幸いです。

(執筆:佐々木優樹)

手ぶら登園導入を支援する実証実験プログラムはこちら

自治体向け資料をダウンロード
手ぶら登園公式LINE