手ぶら登園保育コラム

保育園の運営に役立つ情報を発信

「子どもの安全をどう守る?①リスクマネジメントの考え方」——小崎恭弘先生の“こんなとき保育でどうする”

「こんなとき、子どもにどう接したらいいのかな…」

保育をしていくなかで、繰り返し目にするシチュエーションに戸惑ったり、とっさに子どもたちに言葉がかけられなかったりして、「これって大丈夫かな」「何て言えば良かったのかな」と悩まれる方は、少なくないでしょう。

この連載では、大阪教育大学・教育学部准教授の小崎恭弘先生に、現場で働く保育士からの、いろんな質問にお答えいただきます。

第7回からは数回にわけて、『子どもの安全』をテーマに、さまざまなシチュエーションで保育者がとるべき対応を考えていきます。まず今回は、具体的な相談を受けていくにあたっての「リスクマネジメントそのものの考え方」を解説いただきました。

【第6回はこちら】
「偏食の激しい子どもへの寄り添い方は?」——小崎恭弘先生の“こんなとき保育でどうする”

子どもたちの「安全を守る」保育の視点

コロナ禍で、私たちの生きる社会、日々の生活は大きく変化しました。同時に保育施設での生活も、さまざまな部分で大きく変わりました。保育におけるこの変化の根底にあるのが、「子どもを守る」という視点です。

保育の営みは、その中心に『子ども』が明確に位置付けられています。そして、この前提にあるのが子どもの命です。

当たり前のことですが、子どもという存在は大人と比べてとても弱く未熟で、一人だけで生きていくことはできません。生まれたての赤ちゃんを考えればわかりますが、周りの保護者や大人の手助けがなければ、ミルクを飲むことも、また病気や災害を避けることもできません。

つまり、子どもを育てること自体が、命を守ることを包括した営みになっているのです。保育も当然の如く、その営みの根底に「子どもを守る」という前提があり、専門職として、より高いレベルで安全への取り組みがなされなければいけません。

最近の保育と安全にまつわる話題

しかし、残念なことに専門的な保育機関である各施設での活動において、子どもたちの安全が守られていない事案が発生しています。

つい先日も東京の幼稚園で、給食で出されたブドウを4歳児が喉に詰まらせて死亡するという、痛ましい事案が見られました。報道では以下のように伝えられています。

ブドウ詰まらせ4歳児死亡 東京の幼稚園で給食中』(2020.9.8.共同通信)

7日午後1時半ごろ、男児は給食で出された直径約3センチのブドウ「ピオーネ」を食べていた際、苦しそうな表情で急に立ち上がった。職員が吐き出させようとしたが出てこず、119番。男児は搬送先の病院で間もなく死亡した。給食では3粒出され、男児の喉からは皮がむかれた状態の1粒が病院で見つかった。

保育施設においてはこのように様々な事故やトラブルがあり、その中で子どもが傷つき、時には命を落としています。

以下は内閣府が公表している事故報告集計です。平成30年は、全国の教育・保育施設において9件の死亡事案(内訳は「認可保育所」が2件、「家庭的保育事業」1件、「その他の認可外保育施設」6件)が発生しています。

「平成30年教育・保育施設等における事故報告集計」の公表及び事故防止対策について』(内閣府子ども・子育て本部)

「平成30年教育・保育施設等における事故報告集計」の公表及び事故防止対策について

全国に3万以上ある施設においての9名を多いとするか、少ないとするかは議論があると思いますが、少なくとも保育の専門施設において9名の子ども達が亡くなっていることは、決して少ない数字であるとは私は思いません。

保育における『リスクマネジメント』

では、子どもの命と安全を守るために、保育ではどのような取り組みをすれば良いのでしょうか?

近年はさまざまな場面で『リスクマネジメント』の理念がかなり浸透してきました。これを保育の中で考えるとき、私は次のように解釈しています。

・リスクマネジメント

保育施設に起こるリスク(事故、危険、災害等)を予見し準備を行い、それらが起きた場合に備えや適切な対応をすることにより、損害や損失を軽減しコントロールする理念や取り組みの総称

日々の生活に根付いた営み、それも未熟な乳幼児を対象とする保育の営みには、多くの「リスク」が存在しています。子どもの病気や小さなケガなどは、どの保育施設においても日々起きていることでしょう。また、保護者や近隣とのトラブル、災害や不審者などの大きなトラブルが起きた場合も、保育施設としての適切な対応が求められます。(今回のコロナ禍への対応などは、その最たるものだと思います)

さらに運営面に目を向けると、保育者の不足や職員の不適切な子どもへの関わりなども、施設全体から見れば大きなリスクを持つものだと言えるのです。

「保育を日々当たり前に行う」ことは、実はそれらのリスクを防いだり、何かしら起きてしまったトラブルや事案に適切に対応したりすることを意味します。それがすなわち、リスクマネジメントなのです。

こう考えると、すでに保育施設はある程度のリスクマネジメントをしているとも言えますが、実際は「なんとなく」で備えていたり、「一貫性や根拠が弱い」場当たり的な対応をしてしまったりしています。また、保育者それぞれに対応が任されていて、職員全体での統一したルールや意識がない施設も見られます。

そうならないよう、子どもの命を守る保育施設としては、リスクマネジメントを組織全体で学ぶ必要があります。これをきちんと理解することで、より強固で適切な対応ができるようになりますし、それが「保育の質」の向上にも大きく寄与することになるのです。

保育における『リスクマネジメント』

保育指針に見る「安全」とは

2018年に改定された『保育所保育指針』では、東日本大震災の影響も受け、保育施設の安全に関する内容が以前より充実したものとなりました。「健康及び安全」で、章をひとつ独立して設けています。

第3章 健康及び安全

保育所保育において、子どもの健康及び安全の確保は、子どもの生命の保持と健やかな生活の基本であり、一人一人の子どもの健康の保持及び増進並びに安全の確保とともに、保育所全体における健康及び安全の確保に努めることが重要となる。

また、子どもが、自らの体や健康に関心をもち、心身の機能を高めていくことが大切である。

特に安全面については、「3 環境及び衛生管理並びに安全管理」の項目の中で、次のように詳しく記載されました。内容や取り組みの具体的な方法が丁寧に示されていることが、よくわかると思います。

(2)事故防止及び安全対策

ア 保育中の事故防止のために、子どもの心身の状態等を踏まえつつ、施設内外の安全点検に努め、安全対策のために全職員の共通理解や体制づくりを図るとともに、家庭や地域の関係機関の協力の下に安全指導を行うこと。

イ 事故防止の取組を行う際には、特に、睡眠中、プール活動・水遊び中、食事中等の場面では重大事故が発生しやすいことを踏まえ、子どもの主体的な活動を大切にしつつ、施設内外の環境の配慮や指導の工夫を行うなど、必要な対策を講じること。

ウ 保育中の事故の発生に備え、施設内外の危険箇所の点検や訓練を実施するとともに、外部からの不審者等の侵入防止のための措置や訓練など不測の事態に備えて必要な対応を行うこと。

 また、子どもの精神保健面における対応に留意すること。

「特に、睡眠中、プール活動・水遊び中、食事中等の場面では重大事故が発生しやすい」と言う記載は、先ほど紹介した事故との関わりを考えずにはおられません。(今回は幼稚園での事案で、保育指針は直接関係ありませんが)

保育の中では、「子どもの存在」そのものが最大のリスクなのです。別の言い方をすれば、子どもが常に危険な存在であるからこそ、保育という営みが成立するのです。

それと同時に、子ども自身に対して安全への意識や能力を育て、自ら危険を察知したり、回避したりできるようにすることも保育の大きな役割と言えます。保育者が子どもを常に守り育てるのではなく、守り育てながらも「子ども自身の成長に安全の力をしっかりと根付かせる」ことこそが、保育なのです。

次回からの記事では、そうした考え方を元にして、具体的なシチュエーションごとの保育者の対応をいくつかお伝えしていけたらと考えています。

小崎恭弘
大阪教育大学教育学部准教授。1968年兵庫県生まれ。兵庫県西宮市公立保育所で初の男性保育士として12年間、保育に携わる。NHK Eテレ『すくすく子育て』をはじめ、テレビや新聞、雑誌など多方面で活躍中。年間通して全国で育児指南を披露する子育ての講演を行う。NPO法人ファザーリング・ジャパン顧問。『家族・働き方・社会を変える父親への子育て支援』『子どもの力を伸ばす!! じょうずな叱り方・ほめ方』など単著・共著多数。NECQA(保育士と保育の質に関する研究会)代表。

(編集:佐々木将史)

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