手ぶら登園保育コラム

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「乱暴な言葉遣い、どうすればいいの?」——小崎恭弘先生の“こんなとき保育でどうする”

「乱暴な言葉遣い、どうすればいいの?」——小崎恭弘先生の“こんなとき保育でどうする”

「こんなとき、子どもにどう接したらいいのかな…」

保育をしていくなかで、繰り返し目にするシチュエーションに戸惑ったり、とっさに子どもたちに言葉がかけられなかったりして、「これって大丈夫かな」「何て言えば良かったのかな」と悩まれる方は、少なくないでしょう。

この連載では、大阪教育大学・教育学部准教授の小崎恭弘先生に、現場で働く保育士が直面している、いろんな悩みにお答えいただきます。

第2回は、「乱暴な言葉遣いがクラスで流行ってしまった。どうしたらいいですか?」という質問。保育者として、どのような関わり方をすればいいのでしょうか。

【第1回はこちら】
「いつも一人で遊んでて大丈夫?」——小崎恭弘先生の“こんなとき保育でどうする”

なぜ「乱暴な言葉遣い」が気になるのか

言葉遣いへの悩みは、保育者だけでなく、保護者からも相談を受けることが多くあります。私もこれまでに何度も、「保育所に行き始めてから、うちの子どもが乱暴な言葉を使うようになりました。どうしたらいいんでしょうか…?」といった質問を受けてきました。

つまり、これは何も特別なことではなく、保育に関わっていると比較的多く見られることだと言えます。「うちのクラスだけ言葉遣いが悪い」「乱暴なクラスになってしまっている」などと思う必要はありません。また、先生の指導やクラスづくりが失敗をしている、という問題でもないのです。

まずは、ごく自然に起きる事象だということを認識しておきましょう。

なぜ「乱暴な言葉遣い」が気になるのか

その上で、どうしてこのような悩みが起きるのかを考えてみます。

そもそも、乱暴な言葉遣いとはどのようなものでしょう?例えば、「おれー」「おまえー」「やめろ」「あっちいけ」「ばか」「あほ」…などでしょうか。他にもあるかもしれませんが、まずはこれぐらいにしておきましょう。

とてもかわいい子どもたちが、突然こんな言葉を使うようになると心が悲しくなりますし、時には胸が締め付けられる感覚になりますよね。そこには、保育者として二つの思いがあります。

一つは、普段からそのような言葉が飛び交う環境で生活をしているのかという、子どもたちの「生活背景」への想像からくる辛さです。もう一つは、そんな言葉自体を使うことになった、「保育環境」や「保育者の支援のあり方」に対する不安です。

乱暴な言葉を使うこと自体から来る、あまりよくないイメージはどうしてもありますよね。子どもたちの使う言葉というものは、それほど大きな影響力があると言えます。

獲得する言葉は、一人ひとり「違っていい」

「言葉」は五領域の一つにもあり、子どもの成長や保育の営みと切り離して考えることができないものです。保育所保育指針では、「1〜3歳未満」と「3歳以上」と二つに分かれて、以下のように書かれています。

言葉(『第2章 保育の内容』)

経験したことや考えたことなどを自分なりの言葉で表現し、相手の話す言葉を聞こうとする意欲や態度を育て、言葉に対する感覚や言葉で表現する力を養う。

・1歳以上3歳未満児の保育に関わるねらい及び内容

(ア) ねらい

① 言葉遊びや言葉で表現する楽しさを感じる。

② 人の言葉や話などを聞き、自分でも思ったことを伝えようとする。

③ 絵本や物語等に親しむとともに、言葉のやり取りを通じて身近な人と気持ちを通わせる。

……

・3歳以上児の保育に関するねらい及び内容

(ア) ねらい

① 自分の気持ちを言葉で表現する楽しさを味わう。

② 人の言葉や話などをよく聞き、自分の経験したことや考えたことを話し、伝え合う喜びを味わう。

③ 日常生活に必要な言葉が分かるようになるとともに、絵本や物語などに親しみ、言葉に対する感覚を豊かにし、保育士等や友達と心を通わせる。

……

読んで気づくことは、「乱暴な言葉遣い」や「正しい言葉の使い方」についての記載はない、ということです。一方で、上記に続く (イ) 内容 (ウ) 内容の取り扱い の中で、「言葉の楽しさや美しさに気付く」や「言葉による伝え合いができるようにする」などの点が記されています。実は、ここが一つの大きなポイントとなるのです。

というのも、保育指針の示す語彙の獲得や習得の機会、言葉遣いや言い回し、表現の具体的な方法などは、全て一人ひとり“違うものである”と言えるからです。そして、それは違っていいのです。

当然ですが、言葉は子どもたちの生活と密接につながっており、育つ環境に大きく影響を受けます。極端な例ですが、イギリスで育った赤ちゃんは英語を話しますし、韓国で育った赤ちゃんは韓国語を話しますよね。それぞれの言語文化の中で育った赤ちゃんは、その言語を当たり前のように獲得するのです。これは実はすごいことで、僕など何年も英語を学んだはずですが、全く喋ることができません。言葉はまさに、文化を背負った形で表現されるものなのです。

この視点で、乱暴な言葉遣いを考えてみましょう。

簡単に言えば、その子どもたちは「乱暴な言葉の文化を背負っている」となりますよね。しかし、それ自体を否定的に捉える必要はないと思います。なぜなら、文化というものは、単純で単一的なものではないからです。むしろ、さまざまな価値観や環境が複合して、一人ひとりの子どもの中に出来上がっていく、その複雑さの現れだと考える方がいいでしょう。

いいことも悪いことも学んで、子どもは成長する

言葉の獲得には、広く言葉を覚える時期やタイミング(言葉の爆発期)があり、その後に適切に使用することを学んでいくのです。多くの言葉を学んでいくときに、“いい言葉だけを学ぶ”などは不可能です。また、それはとても歪なことのように感じます。

子どもは言葉だけでなく、いろいろな行為、価値観、思いや感情など、決して大人がいいと思うことばかりを覚えるわけではありません。実際、保育士をしていると、「して欲しくないな…」と思うことほど、子どもたちはよくしますよね。そんな時は、覚えも早い気がします。

いいことと同じだけ、もしかするとそれ以上に、悪いこと、不必要なことを子どもは獲得していくのです。そうして多くのものごとを自分の中に位置づけて、使えるように準備するのが、成長するということなのでしょう。

いいことも悪いことも学んで、子どもは成長する

そして、この豊かな成長の後に、いいことと悪いこと、使っていい場面やよくない人をきちんと区別したり、理解したりしていくことが「教育」という営みです。

教育をするためには、前段階として豊かで多様な材料が必要となります。その一つは、もしかすると「乱暴な言葉」「不適切な行動」など、大人からするとあまりいいものではないかもしれません。しかし、子どもたちを育てる大きな要素であると思ってください。

これを読まれている皆さんは、人生いいことばかりして育ってきましたか?決してそうではなく、成長の中において、いけないことやダメなこともたくさんしてきたのでは、と思います。それが人としての営みの、あるべき姿ではないでしょうか。

新しい文化を重ねる“チャンス”

乱暴な言葉や、大人からすると不適切な語彙や言い回しがクラスで流行ったときこそ、保育にとってはチャンスです。

なぜなら、それは子どもの言葉の使い方に気づき、介入できるチャンスだからです。さらに、子どもの背負っている文化に、新しい文化や、保育として適切であると思う言葉を重ねるタイミングが来たということでもあるからです。

「なぜそのような言葉がよくないのか」

「その言葉でみんなはどう感じるのか」

「どんな言葉を使ったらいいのか」

「言葉で話す、伝えるとはどういうことか」

こんなことを子ども達と話すことができれば、とても素敵なことです。また、保育として、今までの「乱暴な言葉を使う文化」に新しい「素敵な言葉を使う文化」を上書きできることにもなります。

そうした関わり方こそが、文化の多重性や多様性を学んで子どもたちがより豊かになれる、「保育者の援助」と言えるのではないでしょうか。

小崎恭弘
大阪教育大学教育学部准教授。1968年兵庫県生まれ。兵庫県西宮市公立保育所で初の男性保育士として12年間、保育に携わる。NHK Eテレ『すくすく子育て』をはじめ、テレビや新聞、雑誌など多方面で活躍中。年間通して全国で育児指南を披露する子育ての講演を行う。NPO法人ファザーリング・ジャパン顧問。『家族・働き方・社会を変える父親への子育て支援』『子どもの力を伸ばす!! じょうずな叱り方・ほめ方』など単著・共著多数。NECQA(保育士と保育の質に関する研究会)代表。

(編集:佐々木将史)

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