手ぶら登園保育コラム

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「偏食の激しい子どもへの寄り添い方は?」——小崎恭弘先生の“こんなとき保育でどうする”

「偏食の激しい子どもへの寄り添い方は?」——小崎恭弘先生の“こんなとき保育でどうする”

「こんなとき、子どもにどう接したらいいのかな…」

保育をしていくなかで、繰り返し目にするシチュエーションに戸惑ったり、とっさに子どもたちに言葉がかけられなかったりして、「これって大丈夫かな」「何て言えば良かったのかな」と悩まれる方は、少なくないでしょう。

この連載では、大阪教育大学・教育学部准教授の小崎恭弘先生に、現場で働く保育士からの、いろんな質問にお答えいただきます。

第6回は、「クラスに偏食の激しい子どもがいて、対応に困っています」というお悩み相談。保育者として、どのような寄り添いを心がければいいのでしょうか。

【第5回はこちら】
「モノの取り合いがクラスでよく起きるときは?」——小崎恭弘先生の“こんなとき保育でどうする”

なぜ子どもに「偏食」が多いのか

偏食への対応は、もしかすると保育の中で一番悩むことが多いかもしれません。子どもの年齢にもよるものの、一人ひとりの個性がはっきりとわかる場面の一つが、食事であるように感じます。

同時に、保育者の子どもに対する姿勢が明確に表れるのも、この偏食に伴う「好き嫌い」の場面ではないでしょうか?「食べたくない!」「これキライ!これイヤ!」という言葉への対応は極端に言うと、「じゃあ食べなくていいよ」と伝えて諦めるか、また「食べないといけません」と言って子どもに食べさせるのか、方法としてはこの2つに大別されます。

もちろん、その「間」にあるものこそが、子どもの個性や体調、保育者の思いや価値観、また当日の給食内容や食材などによって変わる、様々な寄り添いです。今回は、そこにどう具体的に対応すればよいのか見ていきたいと思います。

なぜ子どもに「偏食」が多いのか

そもそも子どもの偏食は、なぜ起きるのでしょうか?

「食べる」と言う行為は、人の営みにとってとても大切であり、決して欠くことのできないものです。なので、食事とは本質的には「楽しいこと」であり、好きな食材の摂取は喜び、満腹感は幸福感に通底します。

しかし、食経験が脆弱で、十分な発達をしていない乳幼児には、その食材の味をしっかり味わうなどの前に、本能的な感覚で「甘味」や「うま味」などを好んでしまいます。そこに対し、様々な食材を多様な調理法で作り、豊かな食経験をさせることで、子どものたちの味覚や食への意欲が成長するのです。

ちなみに、『保育所保育指針』では以下のように食事について記載されています。

・1歳以上3歳未満児の保育に関わるねらい及び内容

健康 −(ウ)内容の取扱い

② 健康な心と体を育てるためには望ましい食習慣の形成が重要であることを踏まえ、ゆったりとした雰囲気の中で食べる喜びや楽しさを味わい、進んで食べようとする気持ちが育つようにすること。

こうした成長には、家庭での食事も大きく影響します。例えば、家庭で甘いお菓子や飲料水中心の食生活をしていれば、他の食べ物に関心が向きにくくなるでしょう。

つまり、保育者の努力だけで子どもの「好き嫌い」は無くなりません。このことは食事指導が難しくなってしまう理由の一つですが、「保護者の協力も必要だ」ということを押さえる必要があります。

矛盾を抱えつつも、一人ひとりを見るのが保育

一方で、偏食に伴う「好き嫌い」について考える前提として、以下の3つも覚えておかなくてはなりません。

  • 給食は栄養士がきちんと子どもの成長発達、年齢や栄養のバランスを考えて献立を作り、調理をしたものであり、「全て食べること」を想定している。
  • 子どもの発達に伴う食習慣の確立には、子どもの個性や家庭における食習慣の違いなどがあり、「それぞれのペースや分量」に合わせる必要がある。
  • 子どもに無理やり食べさせたり、口の中に食物を詰め込んだりするような食事の指導は不適切であり、避けるべきである。

どの項目も、保育者としては当然理解しておく必要があります。しかし、そもそもこの前提が矛盾しているように感じる方も、中にはいるかもしれませんね。

「全部食べなくてはいけないのに、個性に合わせなくてはいけない。それって、どうすればいいの?」「無理やり食べさせていけないのなら、何もしてはいけないのでは?」——どうしたらいいのか、とにかく迷ってしまいます。

けれども、前提を理解しながらも、子ども一人ひとりの個性をすり合わせる形で、うまく折り合いをつけていく。これもまた、保育の一つの専門性であると私は思います。

私たち保育者はロボットを作っているわけではありませんし、まして全ての子どもに同じようなことだけをすればよいというものでもありません。子どもたち一人ひとりの状態や成長を見極めながら、その子に応じた食事の指導が求められるのです。

生活環境を整えながら「成長」を待つ

それでは、どのように偏食や好き嫌いに対応すればよいのか。大きく3つの視点を示したいと思います。

1. 「食べたい」と思える環境づくり

子どもたちが食事を嫌がる理由には、様々なものがあると思います。したがって、「こうすれば、必ず食べるようになります!」というようなものは存在しません。

それでも、保育者の工夫や取り組みにより、子どもたちの意欲的な行動を引き出すことはできます。例えば、お友達の食べている姿や一緒に食べる機会などに積極的に声をかける。また、栽培や買い物、クッキング保育など、子ども自身が食に関心を持ち、食事の場面で変化を意識できる活動も大切です。

2. 美味しく食事ができる生活リズム

食事は、連続した1日の「生活」の中で存在します。単に「食べる時間」のみを取り出して改善や取り組みを試みても、なかなかうまくいきません。

「食事の最大の調味料は空腹」とも言われますが、お腹が空いていないのに、ごはんを美味しく食べられるわけはないですからね。食事の場面を大切にしたいからこそ、午前中の活動量や朝の間食のあり方など、他の生活との連動性を見直してほしいと思います。

3. 成長を待つ

最終的には、子ども自身の様々な成長や発達を信じて待つ、ということも重要な寄り添いです。

成長の中で、味覚や意識などは変化します。もちろん変わりにくいところもありますが、食べる分量などは顕著に改善することも多いのです。一人ひとりの発達を捉え、そのようなタイミングを待つことも保育者の役割と言えるでしょう。

偏食の多い子どもは、“ダメな子”ではない

皆さんは保育の中で、つい「もりもり何でも食べる子ども」を求めてしまってはいないでしょうか?

こうした“理想の子ども像”を作ってしまうと、「好き嫌い」をする子どもは“理想から離れた存在”として認識されます。その結果、偏食が原因で「意欲の低下」や「不健康な育ち」につながる……といった悪いストーリーも、一気にできあがってしまう。しかし、実際の人の育ちはそれほど単純ではありません。

例えば、これを読まれている保育者の皆さんには、食事の「好き嫌い」はありませんか?私は野菜全般が苦手で、いまだにピーマンは避けたい食材です。(ちなみに52歳です。)どんな大人にも、きっと苦手なものや大嫌いなものがあることでしょう。それでいいのでは、と思います。

偏食の多い子どもは、“ダメな子”ではない

考えてみれば、「好き嫌いをしてはいけません」という言葉自体も、少し面白い表現ですよね。嫌いなものはもちろん、好きなものもあってはいけません、という意味に取れてしまいます。

もちろんこれは屁理屈で、「何でも食べられるようにしなさい」というメッセージなのでしょうが、言葉のままに“意欲”よりも“完食”が優先されてしまうと、「楽しく食べるのは二の次」となりがちです。食事の中で、保育者の満足感や達成感がいつの間にか目的化されていないかは、常に気をつけたいところですね。

保育者からすると、きちんと食べてくれる子どもは、とても“やりやすい子”です。しかし、全ての子どもが食事の場面において、そのようにできるわけではありません。できない子が、ダメな子どもでもありません。

偏食のある子どももいれば、食事のマナーやお箸の持ち方があまり整っていない子もいます。食べられる量が少ない子ども、食べるスピードが遅い子どもなど、本当に様々な個性があり、違いがあります。それをまず前提として認めることは、保育の基礎的な取り組みです。

彼ら一人ひとりの成長を信じて、今日より明日、明日より明後日と少しでも豊かな生活ができるように、寄り添うことができればよいのだと思います。

小崎恭弘
大阪教育大学教育学部准教授。1968年兵庫県生まれ。兵庫県西宮市公立保育所で初の男性保育士として12年間、保育に携わる。NHK Eテレ『すくすく子育て』をはじめ、テレビや新聞、雑誌など多方面で活躍中。年間通して全国で育児指南を披露する子育ての講演を行う。NPO法人ファザーリング・ジャパン顧問。『家族・働き方・社会を変える父親への子育て支援』『子どもの力を伸ばす!! じょうずな叱り方・ほめ方』など単著・共著多数。NECQA(保育士と保育の質に関する研究会)代表。

(編集:佐々木将史)

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