手ぶら登園保育コラム

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ひとりの“好き”が、みんなを巻き込む——イベントレポート「0〜2歳児の遊びの中で芽生える科学のこころ」(2/2)

レッジョ・エミリア・アプローチを取り入れる『こどもなーと保育園』が、保育実践論文を募集するソニー教育財団とコラボしたシンポジウム『0〜2歳児の遊びの中で芽生える科学のこころ』。

前回の記事では、「水の世界」をテーマにした、こどもなーと摂津保育園の発表内容をお届けしました。

後半の記事では、こどもなーと保育園で二度に渡って取り組まれた「図鑑プロジェクト」の発表と、ソニー教育財団・日色さんからの、「科学する心」の視点で見た総括をお届けしていきます。

虫探しから、虫の物語作りへ

図鑑プロジェクトを発表するのは、こどもなーと保育園で、2歳児の担任をする長谷川先生です。

プロジェクトのきっかけは、どこに遊びに行っても“最後は虫探し”になる「虫好きさん」がクラスにいたこと。その子の周りに、どんどん他の子どもたちも集まるようになり、全員で虫を捕まえるようになったそうです。

『こどもなーと保育園』長谷川夏子先生『こどもなーと保育園』長谷川夏子先生

長谷川「子どもたちは最初、『見つけたい』『捕まえたい』という気持ちが大きかったと思います。そんな様子を見て、興味を持ちやすい虫を中心に、タンポポなどの自然物を入れた図鑑を作りました。

『この図鑑と同じものを見つけに行こう』と子どもたちに声をかけたことが、そもそもの始まりです」

虫探しから、虫の物語作りへ

友達同士で「これ見つけた」など言い合いながら、子どもたちは図鑑に載っている虫を上手に探してきました。なかでも、火付け役となった虫好きの子は、最後まで飽きることなく探し続けたといいます。

長谷川「驚いたのは、載っていた丸い石の写真を見て、『全く同じ形』をした石がないか探そうとしていたこと。その姿を見て、子どもたちは真剣に、忠実に図鑑と同じものを探してるんだなと分かりました」

虫探しから、虫の物語作りへ

夏を越え、秋になると子どもたちに変化が見られるようになります。虫探しに重点が置かれていたところから、「虫を追いかける物語が生まれるようになった」と長谷川先生は説明します。

長谷川「例えば、観察していた虫に餌をあげるようになったり、虫の家を作るようになったり、友達同士で戦わせたり。あとは、子どもたちが自然物にもすごく興味を持つようになりました。

虫には全く興味のない女の子でも、自然物には関心があるらしくて。葉っぱを『おやつ』と言って分けあって食べるなど、新しい遊びにも広がっていきました」

自分たちで作る「図鑑作り2」

まだまだ遊びが広がる可能性を感じた長谷川先生たちは、そこから新たなプロジェクト「図鑑作り2」を始めます。

今度は、「子どもたち自身が集めたもの」を図鑑にする取り組みです。これを始めて、保育者はたくさんの気づきを得たといいます。

長谷川「たとえば、子どもたちの『こだわり』。写真の子はものすごい『緑好きさん』で、黄色の葉っぱが周りにたくさん落ちてるのに、それには見向きもしないでひたすら緑のものだけを集めてくるんです」

自分たちで作る「図鑑作り2」

長谷川「他の子どもたちも、この子が緑好きというのは知ってるので、『緑の葉っぱ、あったよ!』と持ってきてくれる姿も見られました。

また、同じ『茶色』と言ってもたくさんの色があって、一緒の葉っぱでも表と裏で濃さが変わる。そんな些細な違いをすでに子どもたちが認識していると気づいて、すごくびっくりしました」

また、ここでも子どもたちのなかに「物語が生まれている」ことを、長谷川先生は感じたといいます。

例えば、下の写真の男の子は公園に着いてから20〜30分、カリカリと音を立てながら、隅でずっとドングリを剥くことに夢中になっていました。なんと、想像上の(公園にはいない)鳩に、エサとしてあげるためだったそうです。

自分たちで作る「図鑑作り2」

長谷川「他にも、葉っぱを『キレイ』と呼ぶ姿から、その子のなかで選んでいるんだなとか。『赤くなってる』と持ってきてくれる姿から、自然の変化にも気づいていることなども、図鑑作りを通じて発見がありました」

ひとりの“好き”が、周りを変える

こどもなーとでは、今回のプロジェクトのなかで、もう1点新しい試みをしています。

それが「マイクロスコープ」。葉脈など、自然物の細部まで見えるもので、子どもたちの関心の幅を広げられたら、と導入してみたそうです。

ひとりの“好き”が、周りを変える

このときも、子どもたちのなかの「一人」が、マイクロスコープでの観察に夢中になりました。そして、その集中が再び新たな広がりを生んでいきます。

長谷川「自分で操作も覚えるようになって、今度は『木の枝が見たい』と動き出しました。見ていると、枝同士を比べながら、同じ木を探す遊びを始めたんです。

すると、この子がものすごく夢中になっているので、まただんだん周りに人が集まってきたんですよ。ひとりの興味が、また他の子どもの活動へと広がっていきました」

ひとりの“好き”が、周りを変える

1年を通して図鑑プロジェクトをやってみて、ひとりの子どもが「周りに与える大きな影響」に気づいたと長谷川先生。

例えば、虫が触れなかった子が触れるようになる——そのひとりは、他でもなくご自身だったそうです。

長谷川「私も、実は全然虫に興味がなかったし、見るのは平気でも触ることはできなかったんです。でも、子どもたちが楽しそうに触っている姿を見ていたら、『自分も触りたいな』という気持ちが出てきて。

長期間ひとつのことを追いかけることで、子どもたちの成長や変化が見られたのはすごく良かったなと思います。同時に、活動を続ける大切さを感じました。自分の“好き”を、子どもたちにもっと追求してもらえたらなと思っています」

「子どもの視点」から、どう環境を変化させる?

最後に、ソニー教育財団の日色さんからは、今回の発表から感じたことの共有がなされました。

「水の世界」と「図鑑プロジェクト」2つの研究を、科学という論文のテーマに沿って振り返ると、「感性」「主体性」「創造性」の3つのポイントが考えられるといいます。

『ソニー教育財団』幼児教育部 主査の日色智絵さん(左端)『ソニー教育財団』幼児教育部 主査の日色智絵さん(左端)

日色「『感性』は、自然やモノや人、できごとに興味を持って、身近に感じたり、魅力や変化を感じ取ったりすること。写真や動画から、乳幼児期の子どもたちの、豊かでみずみずしい感覚を刺激していることがすごく伝わってきました。

そして、『主体性』です。感性や創造性を育む、生活の基盤になるものかなと思います。どちらの発表も、子どもたちが目的を持って自分で動き、夢中になっていく姿を捉えることができました。

さらに、『創造性』。自分で水の流れ方を工夫したり、世界に一つしかないオリジナルの図鑑を作ったりするプロセスからは、子どもたちが新たな発想をして、遊びを展開していったことがよく分かります」

「子どもの視点」から、どう環境を変化させる?

日色さんご自身、いくつか大切なことを気づかされたとも話します。例えば、「一人ひとりに注目」し、それを「ありのままに記録」していること。

同じ場面で同じ遊びをしていても、「2歳児の子どもたち」と一括りにするのではなく、それぞれの言動や気持ちを理解しようする。丁寧な見取りと寄り添いの重要性を、改めて指摘されていました。

日色「子どもたちが夢中になるほど、言葉もなく、もくもくと遊ぶ姿を、保育者は注視することが必要になります。一見同じ遊びを繰り返す姿や、同じ対象への興味を持ち続ける姿を目にすることもあるでしょう。

そのとき、保育者が鋭い観察力や子どもに寄り添う気持ちを持つことで、今日のプロジェクトのように、その変容を細やかに捉えることができるのではないかなと思います」

「子どもの視点」から、どう環境を変化させる?

他にも、論文として応募があった他の園の事例を多数スライドで紹介される日色さん。最後に、「科学する心の視点は子どもの視点」としたうえで、次のように話されました。

日色「大切なのは、子どもが何を探求しているのか、何に気づいているのか、どんな不思議に出会ったのかに気づく目線。そして、気づいてからの環境の創意工夫です。

のびのびと子どもたちが思いを表し、活動していく援助をするにはどうすればいいか。興味や実態に寄り沿った環境の再構成こそが、保育者にとって重要になるのかなと考えています」

「子どもの視点」から、どう環境を変化させる?

現場での具体的な実践がたくさん共有され、多くの保育者の心を刺激したこの日のトークイベント。会場からの質疑応答を経るなかで時間を越え、惜しまれながらの終了となりました。

今回、記事でご紹介できなかったソニー教育財団の論文事例は、上のサイト内からダウンロードできます。全国から寄せられた、さまざまに特徴的な取り組みから、「創造性」を考えるタネ、目の前の子どもに向きあうヒントを探してみてください。

(取材・執筆/佐々木将史)

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