手ぶら登園保育コラム

保育園の運営に役立つ情報を発信

「次の世代」のための子育てと保育、枚方市とフランスの事例を交えて——木村亮太×髙崎順子

「次の世代」のための子育てと保育、枚方市とフランスの事例を交えて

公立の施設でも、園として「何をやって、何をやらないか」は地域ごとに大きく異なる日本の保育。その違いが、地域性を伴う豊かな形で保育内容に表れることもあれば、「昔からの慣例」として現場の負荷になっているケースもあります。

そうしたなか、この数年で『完全給食の実施(主食持参の廃止)』『おむつの園廃棄(家庭持ち帰りの廃止)』『保育ICTシステムの導入』などを決定したのが、大阪府枚方市です。子育て施策について、何度も同市議会で一般質問をしてきた議員の木村亮太さんは、次のように話します。

「『まだ対応できてないのはうちの自治体くらいですよ』と完全給食について声をあげたとき、かなり響きやすくなっていることを感じました。もちろん、何かを変えるときには、予算と効果の関係をきちんと示す必要がありますし、それまで続いてきた“価値観”を変えるようなアクションも重要です」

子どもと保護者を支えるための施策を、どう訴え、変えていけばいいか。詳しいお話を伺うため、BABY JOBでは今回、木村さんの対談企画を実現。お相手は『フランスはどう少子化を克服したか』(新潮社)の著者であり、『保育園からおむつの持ち帰りをなくす会』に当初から賛同くださった髙崎順子さんです。

BABY JOBが運営事務局を務める『保育園からおむつの持ち帰りをなくす会』のプロジェクト。2021年6月の設立以来、すでに1万人を超える署名が集まっています

費用対効果のよい「使用済み紙おむつの園廃棄」

——木村さんはもともと、子育て施策にとても積極的に取り組まれてきたと伺っています。

木村:はい。日本全体で人口が減ると予測されるなかで、「次の世代」にもっと予算をつけていかないと、衰退することは目に見えています。地域がどうすれば持続可能かを考えていくと、子育てや教育の問題は避けて通れないと思っていました。

なので、就任当初からできるだけそこに特化することを意識しながら、具体的にどの政策から取り組んだらいいかを自分で調べてきました。そのなかで、髙崎さんの著書も読ませていただいて。

髙崎:ありがとうございます。木村さんとは、以前からSNS上でもやり取りをさせていただいていました。

フランスの育児に関する制度や工夫を、髙崎順子さんがレポートした『フランスはどう少子化を克服したか』(編集部撮影)

——木村さんご自身のブログでも、この本で「おむつの持ち帰り」を知ったと書かれていましたね。枚方市では2022年度から使用済みおむつの園廃棄が始まりますが、実現にあたってどこが一番のポイントだったとお考えですか?

木村:おむつの家庭への持ち帰りは、保護者にも保育士にも余計な負担でしかないと感じていたので、市の保育担当課に対して「早く止めましょう」と積極的に提案していました。

ただ、子育て支援で検討すべき課題は、当然これだけではありません。そのなかで保育園での廃棄を進めるには、「これを優先的にやったほうがいい」という説明が必要です。使用済みおむつの持ち帰りに関しては、他の施策に比べて“費用対効果が高い”、という点が大きかったかなと思います。

髙崎:私も「おむつの持ち帰りをやめましょう」と提言したとき、園廃棄を進めた自治体や施設から言われたのは、「すぐできるし、実はそんなにお金もかからない」ということでした。にも関わらず、効果が高いですねと。

保育士・保護者どちらの負担軽減にもなりますし、今だと感染症対策の意味も高まっています。家庭への持ち帰りに衛生面のリスクがあることは、国立感染症研究所も指摘していますので。

木村:そういったメリットを少ない金額で受けられるのは、やはりいいなという話になりました。実際、かかった費用は各園で廃棄用のゴミ箱を買うための100万円ほど。収集も他のゴミのついでに行う予定で、追加費用の話は今のところは出ていません。

これが例えばタブレットの導入のような話だと、市町村一つでも億単位の施策になります。枚方市はそういったことも予算をつけて対応済みですが、さまざまな制約もあるなか、金銭面のハードルが低いと訴えることは、自治体としてかなり動きやすくなるポイントだと思います。

子育て施策の優先度、どう高める?

——おむつの園廃棄にかかる初期費用は、最近だとコロナ関連の補助金でまかなえるケースも見られました。政府や都道府県などに積極的に予算面のサポートをいただけると、こうした子育て環境の改善事例も増えるかもしれませんね。

木村:そう思います。もちろん、市町村が施策を決めるときは、単に実現のしやすさだけで優先順位をつけているわけではありませんが。私も全体の計画のなかから「どれが市民のニーズが高そうか」と見たうえで、より多くの人が困ってそうな問題を優先して考えるようにしていますね。

あとは本を読んだりデータを参照したりしながら、実際にみなさんの声も聞いて、「これぐらいはやったらいいんじゃないの?」と思うことに取り組んでいます。おむつの園廃棄でも、2020年度から始まった「主食の持参の廃止」でも、そうやって元の課題を見つけてきました。

枚方市議会議員の木村亮太さん。2011年に初当選、現在3期目(提供写真)

髙崎:木村さんに、困りごとを抱えた方から直接メッセージが来ることもありますか?

木村:ありますよ。その場合は、「こういう声が来ていたので、対応できるならお願いします」と市の職員に伝えています。

ただ、SNSなどで議員と直接つながれる時代になったのはすごくいいことである反面、そちらの声のみを聞くのも少し違うかな、とは考えています。議員とのつながりがない方、議員を知らない、知っていても勇気がなくて連絡できない方も、まだ世の中にはいっぱいいらっしゃいますから。

髙崎:そういえば以前、フランスのある当事者団体の方に、「声がたくさんあるだけでは行政も話を聞きづらいので、それをまとめる窓口となり、具体策を提案する活動をしてるんです」と言われたことがあります。

社会に多様な課題があるなかで、意見を整理して具体的なアジェンダとして届けられた案件は、行政としてもその後のコミュニケーションが取りやすい。当事者団体をつくる意義も、そこにあるのだと。

木村:おっしゃる通りです。何かしらまとまった形で「問題の大きさ感」を示していただけると、私たちとしては動きやすいですね。

髙崎:市民の側も、アプローチを工夫する必要があると私は思っています。もっと行政に対して「社会の問題を変えていくパートナー」としてコンタクトしていくほうがいいと考えているんです。

特に日本では、つい行政を「当然のことをやってくれていない」と見がちな傾向がありますが、それでは無為に敵対してしまうだけです。ただ意見を投げて「よろしくね」ではなく、一緒に取り組める形をつくっていく。子育ての環境を変えていくうえでも、ここは一つ大事なポイントだと感じています。

「子どもは社会全体で育てる」へのシフトチェンジ

木村:行政の側も、変えるべきところはたくさんあります。髙崎さんの本を読んでいて、改めてその通りだと思ったのが、「子どもを保育所に預けて働いている親は、そもそもすごく忙しい」ということです。

なのに、預けるための手続きがすごく面倒だったり、毎日たくさんのものを持参する必要がある仕組みになっていたりしては意味がない。保育所は子どもたちが育つための場所ですが、同時に保護者を支える役割もあることに、私たちはもっと目を向ける必要がありますね。

髙崎:フランスで子育て支援をされている方とお話していて感じるのは、みなさん「親の負担を減らす」ことにプライドを持ってらっしゃること。一方、日本では、保護者が本来やるべきことを「代わりにやってあげている」と考える園も少なからずあると聞きます。この違いは何なのだろうと、よく考えるんです。

ライターの髙崎順子さん。フランス在住(提供写真)

木村:それはやはり、日本では「子どもは家庭で育てる」という考えが強いからではないでしょうか。もちろん、法律や枚方市の条例にも「保護者は、第一義的責任を有する」と記載があり、親が子育てすることの前提は理解しています。ただ、そこばかりが強調されるなかで、つい「どうしても無理なら保育所に預ける」という発想になっているのではと思います。

対してフランスには、「子どもは社会全体で育てる」という前提がありますよね。そこが、さまざまな政策の違いにも現れているように感じました。

髙崎:おっしゃる通りですね。逆にそうした考えが日本でも広がれば、保育士さんたちも「自分たちが子どもと保護者の生活を支えているんだ」「保育のプロとして子育てを支援し、社会に貢献しているんだ」と感じられるようになると思うんです。保育士という仕事の存在意義ももっと見直されていくのでは、と考えているのですが、どこから変えていけばいいかが悩ましくて。

木村:難しいですよね……価値観そのものの変容とも言えますし。例えばもう少しリアルな話で考えると、フランスの保育士さんの待遇はどうでしょうか? 日本の場合、給与水準の低さが原因になっているところもあるのかな、と思うのですが。

髙崎:正直、給与はフランスも高くはないですが、福利厚生などは整備されています。延長保育もありませんし、夏休みは園そのものが1カ月間閉まるので、きちんと休むことができます。そもそも仕事をしている人はみんな長期休暇を取らないといけないルールなので、同じ労働者として、そこに文句を言う保護者もいません。

あとは、本当に細かいところにまで気を配って「職業としての価値づけ」をきちんとしている印象がありますね。例えば、一日中立ったり座ったりする仕事だからこそ腰に負担のない椅子を用意してもらい、保護者が来たときも立ち上がって出迎えに行かないように言われているんです。保護者も当然、自分が近くまで行くべきだと理解して行動します。

親の負担を減らす子育て支援の仕事にプライドを持ちながらも、一方で、子どもと関わる保育のプロとしてきちんと配慮をされる。ここを丁寧にやれば、保育士さんに「親の代わりにやってあげている」といった感覚は生まれません。日本でも最近は、若い方を中心にこうした職業観が培われていると聞くので、その点は希望があるなと感じています。

子育ての問題を、政治から変えていくために

——「保育」や「子育て」の捉え方そのものを変えることが、子どもたちや保護者の環境を良くしていくうえでも大切になりますね。最後に、この変化をより早く進めるために、木村さんが今考えられていることがあればお聞きしてもいいでしょうか?

木村:選挙に行くこと、当事者として声を上げていただくことと同時に、私たちも意思決定や政策形成の場に、当事者の方をもっと増やしていくことが重要ではないかと思っています。どうしても50〜60代の男性管理職、男性議員ばかりで議論が進んでしまうことが多いのですが、例えば公務員のなかには子育てをしている当事者もたくさんいるので、そういった“現場感”がわかる方でチームを組んでみる。

実際に大阪の四條畷市では、子育て中の職員で構成されるワーキンググループにさまざまな提案をもらいながら『子ども・子育て支援アクションプラン』を策定した事例があります。なるほど、と思いました。

四條畷市『包括的な子育て支援の構築に向けた具体的な施策の検討結果報告』より引用

髙崎:木村さんは、他市の状況も本当によく見られてますね。

木村:特に同じぐらいの規模や近隣の自治体の動向は気にしています。別の自治体の議員同士でも交流はあるので、そこから「◯◯市はこんな状況です」「今度こういうのを始めるみたいですよ」など、目新しい情報があれば担当課に都度提供していますね。

あとは議員だけでなく、市長や町長にお話を聞く場合もあります。おむつの園廃棄については、三宅町が先にコロナ禍で実施されていたので、森田町長に直接どうやったのかを伺いました。

髙崎:議員に対して、市民の方から声を届ける方法はありますか?

木村:最近だとSNSやWebサイトを持つ政治家も増えてきたので、地元議員や自分の考えに似た議員に対して連絡をしてみるのも良いかと思います。市民から声をかけていただくことは、議員からしてもうれしいはずですから。

ただ、市民のみなさんと政治との間に隔たりがある現状では、それも難しさがありますよね。私たち自身が、もっと信頼される必要があると感じています。

髙崎:木村さんは京都大学の公共政策大学院にも通われるなど、議員になられた後もたくさん勉強されていて、それをまた政策に還元されてきています。そういった方の姿を私たちもきちんと伝え、身近に感じてもらうことが大事だと改めて思いました。今日はありがとうございました。

木村亮太
枚方市議会議員(無所属)。1984年生まれ。2011年に当選し、現在3期目。未来に責任を持った政治を掲げ、行財政改革、人事給与制度改革、教育子育ての充実、持続可能な社会保障制度の構築のために予防医療・介護予防、ICTを活用したまちづくり、行政のデジタル化(DX)、オープンデータやSIB/PFSなども含め公民連携(PPP)を提言している。
髙崎順子
フランス在住のライター。1974年生まれ。出版社に勤務したのち2000年に渡仏、パリ第四大学ソルボンヌ等で仏語を学ぶ。フランス文化に関する取材・執筆の他、各種コーディネートに携わる。得意分野は子育て環境と食。著書に『フランスはどう少子化を克服したか』『パリのごちそう』など。

(構成・執筆/佐々木将史

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