手ぶら登園保育コラム

保育園の運営に役立つ情報を発信

コーナー遊び、サーキット遊びに見る“主体性”の引き出し方——『社会福祉法人 種の会』(1/2)

サーキット遊び

「子どもの主体性を大切に」「子ども中心で保育を考える」

社会における教育の捉え方が変わるなか、こうした言葉が注目を集めるようになってきました。保育の現場でも「保育者主導から子ども主体へ」を掲げる園が増えつつあります。

しかし、いざ実践となると、場面ごとのありようはまちまち。「“子ども主体”って結局どういうこと?」「保育者の役割は?」といった疑問を抱いている保育士の先生方も多いのではないでしょうか。

今回ベビージョブ編集部では、関西・関東で認定こども園や認可保育園を営む『社会福祉法人 種の会』理事長の片山喜章先生にインタビュー。

環境づくりの定番とも言える『コーナー・ゾーン遊び』、独自の取り組みである『サーキット遊び』などを通じて、改めて“子ども主体”の捉え方を伺いました。

「子どもの主体性」は「保育者の主体性」によって引き出される

種の会では、2002年開園の『はっと保育園』(現・はっとこども園、神戸市)をはじめ、9つの認可保育園・こども園、3つの小規模保育施設、6つの児童館などを営んでいます。

運営理念に掲げるのは『みんなでみんなをみていく園づくり』。一つひとつの園を、「大人と子ども」「大人どうし」「子どもどうし」の関係性を再構築する場と捉え、各園で「大人が上位、子どもが下位」「職員文化における上意下達、忖度」などの因襲文化に挑んでいるといいます。使命にしているのは、子どもたちに人権尊重と対話の精神を鍛えること、それを軸に運営される一つの社会を目指すこと。

『社会福祉法人 種の会』運営理念より『社会福祉法人 種の会』運営理念より

法人の代表を務める片山先生は、実は神戸市の男性保育士第1号です。種の会を発足させた当初から、「主体的に行動できる子どもと保育者の関係性」を探ってきました。

片山「主体性とは、意志の働きのことです。私たちは保育者として、その主体性を『どうすればより引き出せるか』という視点で捉える必要があると考えています。

例えば、幼児期に文字を教えることについては昔から多く議論があり、『主体性の育みを阻害するのでは?』といった主張を見かけることもあります。でも、その良し悪しは一概に語ることのできないものです。保育環境や協同性のある活動(郵便・手紙ごっこなど)、工夫されたワークブックによって子どもの興味や関心が引き出され、主体的に文字と意味を会得する場合もあります」

『社会福祉法人 種の会』理事長の片山喜章先生『社会福祉法人 種の会』理事長の片山喜章先生(Zoom取材中の様子)

そもそも“主体性”とは、「育む」というより「引き出す」ものだと捉える片山先生。それは主体的な行動自体が、外から大人に与えられる対象ではなく、子どものなかに「内在している」機能だと考えているからです。

片山「主体性は、『ものとの出会い方』によって発揮のされた方が違ってきます。そこで問われるのが保育者側の主体性です。その意味で、私たちは“主体性”という言葉を保育者と子どもとの関係性を現すツールとして使っていますね」

主体性を考えるヒントは子どもと保育者の関係のなかにある。このことを、具体的な事例を交えて解説いただきました。

主体性が引き出される環境——事例①『コーナー・ゾーン遊び』

子ども自らが環境に関わり、自発的に活動し、様々な経験を積んでいくことができるよう配慮すること。

『倉橋惣三「保育法」講義録』(フレーベル館)より引用

上は『保育所保育指針』第1章の総則にある一文です。これに基づいた、子どもたちの主体性が表れやすい活動の一つに『コーナー・ゾーン遊び』が挙げられます。

種の会でも、各園で毎日登園から10時前後まで、夕方はおやつ後から降園まで環境が整えられ、園庭も含めてさまざまな工夫が凝らされるとのこと。加えて週に1回は、登園から昼食時間が来るまでの大規模なコーナー・ゾーン遊びが実践されています。

週に一度行なわれるコーナー・ゾーン遊びの“特別日”

片山「コーナー・ゾーン遊びは、子どもにとっても保育者にとっても、主体性という観点から保育の『質』を担保しやすい活動です。そのためにはまず、コーナーに揃える玩具や教材について検討したり吟味したりすることが大切ですね。保育者と子どもたちの主体性が存分に発揮されることで、ある園では、テーマのはっきりした大々的なごっこ遊びが毎週のように展開されています」

子どもたち自身の考える力を育む「知的教材」さまざまなボードゲームも取り揃えています。子どもたち自身の考える力を育む「知的教材」として捉えているそう

一方で、いくつかの園では豊富な玩具や教材を揃えながら、そのコーナーが雑然とならないように、参加できる人数の「枠」を設けています。

片山「例えば、全員が一度に積み木で遊んでしまうと、一人ひとりの遊びが限られてしまいます。そこで、『積み木コーナーは6人』といった制約を決め、それを可視化したボードを用意しているんです。

遊ぶときはまず、自分の名前がついたマグネットをボード上で移動させます。もし空きがなければ、『塗り絵コーナーは10人までいけるからまだ大丈夫』などと判断して、別の遊びを選んでいく。

保育者はそのボードがある『フロント』から、誰がどのような活動をしているかを把握し、個別の遊びに対するアドバイスなどをしていきます。また、ボードゲームやパズルの貸し出しと返却業務を行ない、個々の子どもたちが選んだ玩具の管理もします」

その日用意されたコーナー・ゾーンが一目でわかる「フロント」横のボードその日用意されたコーナー・ゾーンが一目でわかる「フロント」横のボード
「フロント」に置かれてあるコーナーの一覧「フロント」に置かれてあるコーナーの一覧。ボードゲームは対象年齢があるため、保育者が貸し出すルールになっています

一つのコーナーの人数を制限したり、その子の適性に合わないボードゲームの貸し出しを断ったりする保育者の行動は、一見子どもの気持ちを無視した“大人都合”にも見えます。しかし、そのような制約を、子どもが主体性を発揮するための「保育者の主体性(役割)の一つの表れ」と理解することも可能だと片山先生。

それは、子どもが自らコーナーを選んで遊ぶ行動が「他の友達がどこで、何で遊んでいるか」を知ることにもなるからです。言い換えれば、「多くの他者の存在を意識して自分の遊びを選択している」=「人との関係性のなかで主体性を働かせている」と考えられます。

片山「異年齢の交わりも、子どもたちの主体性が刺激される大切な要素の一つです。私がいつも驚くのは、3歳前半の子どもでもマグネットの置き換えができること。それって4・5歳児の動きを見ながら、『マグネットの動きと自分の行きたいコーナーが紐づいている』ことを自然に理解しているんですよね。

年少児が年長児から学ぶだけではありません。大きい子どもたちも『小さい子は、何でこんなことするんやろう?』と気持ちを思いやりながら、理解して認めていく。そうした子ども同士の“学び合う関係性”は、実は大人のあずかり知らないところですごく機能しているんだと思います」

主体性の引き出される一斉的活動——事例②『サーキット遊び』

『コーナー・ゾーン遊び』のような、どちらかといえば静的な活動に比べて、全身を使い、活動意欲を前面に出すのが『サーキット遊び』です。

これは種の会グループとして独自に実践と研究を重ねてきたもので、「循環」の言葉通り、子どもたちが一連の運動環境のなかをぐるぐると繰り返し周回します。遊具を組み合わせて滑り台や坂道を設置したり、平均台やマットなどを並べたりしてコースをつくり、子どもの身体的な調整力を養っていきます。

サーキット遊び

法人全体で、手応えと確信をもって重点的に取り組んでいる一方、こうした活動を日常的に実践している園はまだ少ないそうです。片山先生も「誤解や偏見のまなざしで評価されているかもしれない」と語りますが、実はサーキット遊びには、種の会としてとても大事にしている視点があります。

それは、子どもに本来備わっている「“全身を動かしたい”という生理的な欲求」です。

片山「例えば、離れた場所に行くとき、まっすぐの道と階段や坂がある道があれば私たち大人はみんな平坦な道を行きますよね。でもほとんどの子どもは、登って下りてとわざわざ運動量の大きい道を選びます。その方がおもしろいからです」

鉄棒にマットをかけて押し進めるもの鉄棒にマットをかけて押し進めるもの。いわゆる“運動遊具以外にも、こうした環境設計を常に考えているそうです

4・5歳児にもなると、「20〜30分間休みなく動き続ける」というサーキット遊び。活動の鍵は、子どもにとっての「愉悦感」を引き出す遊具設定にあるそうです。

片山「私たちは『動詞の数をできるだけ増やそう』と言っています。渡る、くぐる、登る、降りる……といった動作の機会が多いほど、子どもはおもしろいと感じてくれる。それをどう組み合わせて実現するかは、保育者のクリエイティビティの求められるところです。

一方で、一つの遊具においてどういった動きを選ぶかは、子ども次第でもあります。保育者はあれこれと指示はしませんから、跳び箱を見たときに開脚跳びをする子もいれば、よじ登る子どももいる。登ったあとも勢いよく飛び降りるチャレンジ精神旺盛な子がいれば、後ろ向きに降りる慎重な子もいますね。

これは要するに、自分の動きを自分自身と相談しているわけです。自ら『ここまで』と決めたり、友達の飛んでる姿に刺激を受けて『やってみたい』という気持ちになったり。遊具を前にした一人ひとりの選択を保証してあげることが、そのまま子どもの主体性につながると考えています」

難易度が高い運動はルートを複数つくる難易度が高い運動はルートを複数つくるなど、「待つ」状態を生まない工夫も必要

さらに、遊びをより盛り上げるために大切な視点も教えていただきました。

一つは「仲間」。幼児教育では、子ども一人ひとりの育ちを考えたときに「小集団のほうが良い」とされる場面が多くありますが、サーキット遊びに限っては「20人を超える活動の方が持続する」(逆に、少人数であればあるほど飽きが早い)のだそうです。仲間と一緒であること、けれども仲間と違う動きができることの混ざり合いが、「子どもにとってのわくわく感を生むのでは」と片山先生は指摘します。

片山「もう一つ重要なのは、やはり『保育者』の関わり方です。個々の子どもを見守りながらも、子どもたちがその日の気分で『飽きてきたかな』と感じたら、下り坂を上り坂に変えてみる。どのように場を変化させれば子どもがより楽しめるかは、時々で閃くしかありません。

その意味で、毎回のサーキット遊びが一つのライブであり、一期一会のドラマだとも言えますね。保育者が願いを込めて観察しながら、試行錯誤し続けることが大事だと考えています」

子どもの“溜め込む”力を生かす

二つの事例は、どちらも主体性を引き出すうえで効果の高い活動です。しかし、種の会ではそうした活動ばかりを行なっているわけではありません。サーキット遊びであれば、3歳児以上は基本「週に1回」のペースを守って展開しているといいます。(※ 2歳児までは、周回する習慣を体得するために、基本的に毎日時間を決めて行なっています)

片山「週1回だからこそ、その1日に力が開花したり、飛躍したりすることがあるんです。子どもたちが1週間で蓄え、圧縮されたさまざまなものが一気に発揮されるのを感じるんですね。

どれだけ効果的な活動であっても、必ずしも毎日すればいいとは限らない。むしろ各園で曜日を決め、行事などが重なる時期などにも、きちんとペースを維持することが大切だと思います」

『社会福祉法人 種の会』理事長の片山喜章先生2

これはコーナー・ゾーン遊びにおいても同様です。主体性を引き出しやすい室内環境であるため、各園では日常的に小さなコーナー・ゾーンを設置していますが、先ほど示したような大規模な活動はやはり「週に1回」。

この“特別なコーナー・ゾーンの日”を子どもたちは楽しみにしていて、いざ当日になると朝から勢いよく遊びに興じていくのだそうです。

片山「スペシャルな1日は、活動の深まり方や盛り上がり方が全く異なります。お店屋さんごっこなどでも本格的なものを揃えますし、職員による催しが行われることもあります。

例えば、園によっては『音楽コーナー』を準備して、リズム打ちなどの専門スキルを持った職員が演奏をしているんですね。そこを訪れた子どもたちは、先生たちと一緒に音楽を楽しみ、終わったらまた好きなコーナーに戻っていく。時間も『10時から』などと決まっているので、書かれた時間と時計を見ながら行動することを覚えます」

楽器で遊ぶ子どもたち

こうした取り組みを重ねることで、子どもたちだけでなく「保育者の創意や柔軟さも鍛えられている」と話す片山先生。その言葉からは、保育者自身が週に一度の体験に向けて力を溜め込み、それを適切に発揮させて子どもたちを「導く」ということへの強い期待が伺えます。

一方で、ここには難しい側面も含まれています。「子ども主体」と時に相反する意味で使われる「保育者主導」への懸念です。保育者が力を発揮していく際、この「保育者主導」という言葉とどう向き合っていけばいいのか。

片山先生は「二項対立で考えるのではなく、“見守り”と“導き”の混ざり合いが大切です」と話します。一体どういうことなのか、後編ではその意図を解説いただきました。

後編につづきます>

(取材・執筆/佐々木将史、写真提供/社会福祉法人 種の会)

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