自分のために、自分にできることを。いま保育者におくりたい絵本(作家・長谷川義史)
保育の現場にさまざまな変化をもたらした、2020年のコロナ禍。
厳しい対応を迫られることも多く、この1年は子どもたちも保育者もストレスを抱える時間が長かったはずです。
「大変な状況が続くなかで、たまには先生方にほっこりする時間を過ごしてほしい」
そう話すのは、絵本作家の長谷川義史さん。昨年11月のある日曜の夜、保育者に向けてオンライン越しに著作の読み聞かせをしていただきながら、子どもたちや社会への想いも語ってもらいました。
(この記事は、2020年11月に開催された『秋の保育アカデミー』(主催:大友剛/協力:Hoick)のオンライン講義の内容を、メディアパートナーとしてベビージョブ編集部が再構成したものです。記事トップの写真/撮影:相澤心也)
「生」の子どもたちと向き合う保育者へ
長谷川コロナになって、今まだこんな状態が続いてますからね、リモートで絵本の読み聞かせをやることがずいぶん増えました。増えましたけど、やっぱり「生」の体験が子どもには一番やなぁってことを、最近すごく感じますね。
僕のやっていることは、エンターテイメントと言うほど大したものではありません。ただ、「生」で話して「生」で反応を返してくれて、それに乗ってまたこっちも返す……それだけのことが、子どもたちにとって実はすごく必要なことなんやなと。
ようやく最近になって少しずつ園に行かせていただくようになってね、改めてその大事さを感じました。
長谷川今は子どもたちが、そういった必要な体験をなかなかできません。これが一番キツいことやなと思います。子どもなんて、密着するのが当たり前ですからね。触ってはいけない、いつもの楽しい催しができない、みんなで遠くに遊びにも行けない。
もちろん保育士の先生方も、感染予防から子どものケアから、ほんまに大変な状況ですよね。なかなか楽しいこともできなくなってますからね、余計にしんどい状態やと思います。
そんななかで、「生」の子どもたちに向き合ってくださってる先生方には、何とか元気でやっていただきたいなと思うんです。なので今日はゆっくり絵本に触れて、ちょっとでも楽しんでいただけたらなと考えています。
『おじいちゃんのおじいちゃんのおじいちゃんのおじいちゃん』
長谷川これは、僕のデビュー作です。小さい頃から「大きくなったら絵を描く人になりたいなぁ」と思ってやっと出来あがった絵本で、一番想い入れがある作品ですね。
長谷川僕は昔から絵を描くのが大好きでして、まだ幼稚園も行かないときから、いらなくなったチラシやカレンダーの裏にわーっと描くのが一番おもしろかったんですね。
で、幼稚園に行って絵の具と筆を持たせてもらったら、またそれがすごく楽しくて。当時は色も単純な青、黄、緑、赤、黒ぐらいしかなかったんですけど、絵を描くのがますます好きになりました。
小学校6年生のとき、担任に大西先生という方がいらっしゃいました。大西先生が教えてくれたのは、よーく見ることと、けれども見たそのままじゃなく、「自分の感じたように」描くこと。太い筆にたっぷり絵の具をつけて、「はみ出してもいいから、あなたなりに思ったとおり描くのよ」と教えてくれました。
そうすれば、同じ絵なんてどこにもなくなるからと。
この教えはね、未だになかなか実践できないんですけども。一生をかけてそういう絵を描きたいなと、僕は思っています。
『おへそのあな』
長谷川自分に子どもが生まれたとき、実際に体験したことを描いた絵本です。
この頃って、親は一番大変な時期ですけども。子どもたちがみんな成人した今思い返すと、夢のような、ものすごく貴重な時間やったなと思いますね。
長谷川良い時間ですよね。小さい子どもたちがいて、また赤ちゃんが生まれてきたうちの中がね、何とも言えない甘酸っぱいような空気でね。
でも、親も初心者です。親になったことなんてないですから、必死ですよね。ついこの間まで自分も子どもやったんですから。
僕は出産も立会いをさせてもらいましたけど、当時はそれが珍しい時代でしたね。たかだか25年くらい前のことです。うちは奥さんも絵を描いて仕事してますので、「できることは分担しよう」とやってましたが、幼稚園に毎日送り迎えに来るお父さんなんてあの頃はいなかったですね。
それを思うと、四半世紀でずいぶん変わりました。絵本ライブも、昔はお父さんがわざわざ外で待ってたりということもありましたけど、今はもう家族みんなで来てくれて、うれしいなと思いますね。
『へいわってすてきだね』
長谷川安里有生くんという6歳の男の子の詩に、僕が絵を描かせていただいた絵本です。
毎年、6月23日の「慰霊の日」(太平洋戦争で、死者20万人余りと言われる沖縄戦が終結した日)になると、沖縄の子どもたちは平和への願いをいろんな形で表現してくれます。その式典で詩を朗読してくれたのが、与那国島に住んでいた安里くんでした。
長谷川僕が与那国島を訪ねると、有生くんと、お父さん、お母さん、お兄ちゃん、妹さんの家族5人がとても仲良しで、みなさんにすごく優しくしていただいて。「ああ、有生くんは家族が大切やねんな」っていうのをね、お会いしたときにすぐ感じました。
そんな有生くんが「平和って何かな?」って考えて、普通の沖縄の、与那国島の日々を言っている。みんなで家族で住んでいるこの状態が大切なんやなと。
何も特別なことは言うてないんです。家族の次は学校も平和であってほしいし、友達もそう。与那国島も沖縄も同じです。
さらに有生くんはここでね、日本じゃなくて「世界」とも言ってます。考えたら当たり前ですけど、大人になると国と国で争ってね、陸続きのところは他の国との間に壁をつくろうなんてして。人間っておかしなことしますよね。
子どもはそんなこと考えてません。どこの国の人も、みんな平和でいたいんやろうなぁと。その優しい気持ちが平和につながるんちゃうかなと、言ってくれています。
自分のために、自分のできることを。
長谷川『へいわってすてきだね』の最後のところ、もう一度見てみてほしいんです。「ぼくも、ぼくのできることからがんばるよ」——小さな男の子が言っております。
やっぱり自分のできることをせんとね。自分のために、まずは自分のできることせんとあきませんね。
で、自分を好きになることが、人のためにもなっていく。こんな状況だからこそ、「人のことも考えなあかんで」と僕はほんまに思うんです。
この本を読むと、そういう当たり前のことを、今さらながら1年生の子に教わっている気がしてくるんですね。
※ 90分の講演中に披露された読み聞かせ・ライブペイントなどの内容から、本記事では長谷川さんの3つの作品と、それにまつわるエピソードをご紹介しました
- 講師:長谷川義史(はせがわ よしふみ)
- 大阪生まれ。グラフィックデザイナー、イラストレーターを経て、2000年に『おじいちゃんのおじいちゃんのおじいちゃんのおじいちゃん』で作家デビュー。2003年『おたまさんのおかいさん』(解放出版社)で講談社出版文化賞絵本賞、2008年『ぼくがラーメンたべてるとき』(教育画劇)で日本絵本賞、小学館児童出版文化賞を受賞。
- 企画・主催:大友 剛(おおとも たけし)
- ミュージシャン&マジシャン&翻訳家。「音楽とマジックと絵本」で活動。NHK教育「すくすく子育て」に出演。東北被災地に音楽とマジックを届ける『Music&Magicキャラバン』設立。著書に「ねこのピート」「えがないえほん」「カラーモンスター 」など多数。YouTubeで発信中。
<『秋の保育アカデミー』の続編となるセミナー『冬の保育アカデミー』が、2021年2月に開催されます。次回もすべての講演で見逃し配信に対応、園単位の申し込みも可能です。詳しくは下記サイトをご覧ください。
おむつの管理が楽になる手ぶら登園
おむつのサブスク手ぶら登園( https://tebura-touen.com/facility )とは、保護者も保育士も嬉しいおむつの定額サービスです。手ぶら登園は、2020年日本サブスクリプションビジネス大賞を受賞し、今では導入施設数が1,000施設(2021年6月時点)を突破しています。
保育園に直接おむつが届くため、保護者はおむつを持ってくる必要がなくなり、保育士は園児ごとにおむつ管理をする必要がなくなります。